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2016.10.12
2016.10.12

【未来の「学び」プロジェクトー前原】 校長のプログラミング授業日記 その1

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2学期のプログラミングが始まる

「おはようございます」
毎朝、子どもたちと交わす挨拶が楽しい。登校のチャイムが鳴って、子どもたちが校舎に入ってくる。私は1階から3階の各教室を回りながら、教室や廊下で出会う子どもたちと挨拶する。
「校長先生、おはようございます」
小金井市(東京都)に異動してきて、本当によかった。素直で愛らしい子どものたちの挨拶は、家庭で慈しみ育てられてきたことの現れ。そんな笑顔に接する毎に、「よし、今日も一日、この子どもたちのために未来の『学び』を拓くぞ!」と心に誓う。

*昇降口から登校する子どもたち(学校は、子どもたちが大人になった時代と最先端の技術を学ぶ場!)

そんな感傷?に浸っていると、突然
「校長先生、マイクラはサバイバルモードですか?」
と子どもが言ってくる。
「いや、クリエイティブでしょ。まずは」と返答する私。全国を見渡して、さりげなくこんな会話を子どもと交わせる校長は、私ぐらいだと一人ごちている。
すかさず近くにいた子どもが、「いつやるんですか?」と尋ねてきた。
「運動会(10月1日)が終わってからかな」
一息置いて
「マイクラやるけど、その前にしっかりスクラッチ学ぼうね。学校でやるマイクラ、ラズパイのマイクラ・パイだから」
「???」
「スクラッチでマイクラ動かすんだよ」
この言葉に、さすがの子どもたちも
「…………..」

プログラミング授業日記の始まり

今月から本校(小金井市立前原小)で取り組んでいるプログラミング授業の様子を物語風の授業記録として連載しようと思う。

小学校でのプログラミング必修化については、6月16日に公表された文科省の有識者会議における「議論の取りまとめ」(小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について)を踏まえて、現在、中教審で論議が行われている。
8月末には次期学習指導要領改訂に向けた「審議のまとめ」が最終版として確定して、パブリックコメントや中教審総会の議論等を経て、年度の答申に向け作業が進んでいる。
国は第4次産業革命の真っ只中を生きる子どもたちに必要な資質・能力として情報活用能力を掲げ、それを育成するプログラミング教育の必修化に向けて動き出した。
この動きに呼応するように、この夏(2016年)、子どもたちや保護者そして民間のプログラミング教室やイベントは大盛況であった。
一方、全く盛り上がっていないのが、必修化の舞台となる学校現場….。

不安なのだ。知らないから。

8月30日に本校を会場に小金井市教委が市内教員を対象に「プログラミング研修会」を開催した。
その際、文科省の有識者会議の委員も務めた「みんなのコード代表」利根川氏が「小学校段階のプログラミング教育~有識者会議の議論のとりまとめを読み解く~」と題した講演を行った。
その冒頭に「実施にあたって不安を感じている人は?」と質問したところ、参加者のほぼ全員が挙手した。
何を、どう手をつけてよいか分からないのだ。
(この様子はITpro&ICT教育ニュースが詳しい記事にしているので参照してほしい。)
http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/110400255/091400011/
http://ict-enews.net/2016/09/05koganei/
有識者会議の「議論の取りまとめ」は、小学校でのプログラミングの具体的実施にあたってその授業者や教育課程への位置付けについて次のように述べている。

⚪「学級担任制のメリットを生かしながら、教育課程全体を見渡した中で、プログラミング教育を行う単元を各学校が適切に位置付け、実施していくことが効果的であると考えられる」
⚪「総合的な学習の時間においてプログラミングを体験しながら社会における役割を理解し、それを軸としながら、各教科等における多様なプログラミング教育につなげていくことが効果的である」
⚪「総合的な学習の時間と教科学習の双方で実施したり、教科学習のみで実施したり、総合的な学習の時間のみで実施したりするなど、柔軟な在り方が考えられる」

「プログラミング的思考」等をめぐって様々に議論が交わされている「議論の取りまとめ」だけれど、私にとっては凄い「取りまとめ」である。だって「小学校の学級担任が総合的な学習の時間を使って、第4次産業革命の真っ只中を生きる子供たちに、『プログラミング的思考』を育む授業をどんどんやれ!」、って言っているのだから。
でも現実は諸刃の刃、ってことも理解している。
必修化を打ち出したは良いが、授業時間数の問題やICT環境整備の問題があって具体的な授業実施については、学校裁量となっている。となると
(1)「プログラミングに興味ある教員が数時間実施して、必修化クリア」
(2)「市販されている幾つかのプログラミング本を見て、使えそうな事例を子どもたちになぞらせて必修化クリア」

そんな現場対応が直ぐに頭に浮かんでしまう。
さらに「議論の取りまとめ」には地域等との連携体制を整えることが述べられていることから
(3)大学やNPO、民間の団体への丸投げ
が危惧される。
そして何より、既存教科等での実施については、
(4)21世紀を拓く新しい「学び」の象徴としてのプログラミング授業
を20世紀のレガシーである従来教科のフレームで実施して、本当にComputational Thinkingを育むことができるのだろうか?

基本、無理でしょ。だって20世紀に作りあげられた従来教科の内容と方法に、コンピュータは想定されていないのだから…。人間の能力を50億倍も機能拡張できるコンピューターの可能性を既存授業の内容と方法が制限してしまって、何がComputational Thinkingなのかと思ってしまう。
*清水亮「道具としての国語算数理科社会、そしてプログラミング」(2014.8.15)
https://wirelesswire.jp/2014/08/20148/
私がプログラミング授業に「命をかける」本当の理由(わけ)は、そこに子どものたちの集中した、意欲的で楽しい姿が事実となって現れるからだ。
Amazig & Incredible!(決してUnbelievableではないことに注目!!)

*5年生で実施した最初のプログラミング授業の様子(授業は自然とAdaptive & Activeなものとなっていく)

プログラミング教育の実践

本校では一学期に、既に3年生以上の10クラスでそれぞれ6時間のプログラミングの授業を実践してきた。
本校の教員はプログラミングの授業なんてやったことはないから、前任校で多少の実践経験がある私が、各学年最初の授業を行った。
(1学期のプログラミング授業は、プログラミングしてみよう(2h)+プログラミングに慣れよう(2h)+宣言型のプログラミングをしよう(2h)の3次で授業構成したので、各学年6単位時間(合計24単位時間)、私が授業を行い、その様子を他教員が参観して放課後などにコミュニケーションをとって各自が授業実践していった。)
4管理2監督、校長の職務を遂行しながら、というより実際に授業を行うことで教育課程や教員の学年・学級経営、子どもたちとの関係性など、様々なことが実感として理解でき自校の教育活動の内実をしっかりと把握できたし、何より子どもたちのAmazigな「学び」の姿を目の当たりにできるのが嬉しかった。
そしてそこには次期学習指導要領が標榜する「主体的・対話的で、深い学び」が実現していた!
これまで従来授業のフレームで、四苦八苦してもがきながら実践しようとしてきたアクティブラーニングであるが、タブレット等の端末を使ってプログラミングの授業をすればいとも簡単にそれが実現できる。本当に!
この事実の中に身をおいてはじめて、アクティブラーニングは教員の指導観や指導法とともに子どもたちの学習観を変革することが極めて重要になると悟った。子どもたちは学校に入学するときに、そして正月やお盆など事ある度に、親や親戚から「先生の話をちゃんと聞いて、しっかり勉強するのよ」と叱咤激励されているのだ。だから本校のように我慢して一斉授業を受け入れようとするのだろうし、反対にそれができずに反発もする。
プログラミングの授業は4名程度のグループを構成して、机をくっつけた形で実践してきた。その方が子どもたち同士の「援助要請」や「能動的援助」が自然と行われる。
「どうやるの?」「おしえて?」、隣の友だちの「学ぶ」姿に、「ここ押すんだよ」「すげーっ」等々の関わりが受容的雰囲気を形成し、トライ&エラーが安心してできる学習集団を創り上げていくことになる。
教員はその一つ一つを見逃すことなく、「あーそれいいね!」「◯◯さんの面白いプログラム、みんなで見てみよう!」「やったね!」と価値付けすればいい。
これこそが教員の役目であり、教員しかできないこと。
だって教員は子どもたち一人ひとりのバックグランドも学級の人間関係も、そしてその子どもの個性を一番良く知っているのだから。
子どもの名前を知らない外部の方々には、T2として技術的サポートをしていただければ本当に素敵な「学び」の場が開けるし、プログラミングの授業こそが他教科で「主体的・対話的で、深い学び」を構築する際のモデルになると確信している。

授業実践の事実を伝えていく

2020年からはプログラミング教育が小学校で必修となる。その取り組みが形骸化することのないよう、小学校現場での授業実践の一つの事実をお伝えしたい。
多くの教員がプログラミングの授業って面白そうだ、描かれているような子どもの姿を見てみたい、と実践への意欲を喚起できるよう、また学校現場のプログラミング授業にかかわる多くの方々(大学、NPO、民間の方々)にどのようなサポートが必要であり、有効なのかを考えてもらうために、そして何よりも21世紀を拓く子どもたちの資質・能力を育み、新しい「学び」を創造するために本校の授業実践をレポートしようと思う。今回は前置き長くなってしまった。
次回は、2学期最初のプログラミング授業であるScratchの導入場面を紹介したい。

松田孝