9月1日、プログラミング学習ロボット「embot」の一般販売を記念して、NTTドコモは先生向けのembot体験会イベントを、東京都中央区のD2Cホールで開催した。
参加したのは、小学校や特別支援学校の先生12人。当日はembotを実際に組み立てる体験会のほか、embotを使った実際の活用例や授業事例の紹介などが行われた。
embotは、2017年にNTTドコモとインフォディオが開発したプログラミング学習用ロボット。ダンボール製で取り扱いやすく安価な点、自由にカスタマイズできる手軽さ、本格的なプログラミング学習などが話題になり、同年の7月に発売された「先行体験版」100セットはわずか2日間で完売した。
そして、2018年9月、改良を行った最新版が一般販売されることになった。
イベントでは、最初にembotの開発者であるNTTドコモ イノベーション統括部の額田一利氏から、開発にまつわるエピソードや仕様などが紹介されたあと、参加者の先生に向けたワークショップが開始された。
まず、2種類のお題が出され、それぞれ2分間で思いついたものを書きだしていく。お題は、「今日、家を出て、ここに来るまでに触ったもの」と、「世の中にある仕事」の2つだ。
実はこの2つの質問、これから挑戦するembot製作のための準備だった。額田氏が次に提示したのは、「今書いた2つのお題から1枚ずつ無作為に選びだす」というもの。そして、その2枚をキーワードに合うロボットを自分で考え、製作するのが今回のワークショップというわけだ。
2つのキーワードに沿って、まずは「ロボットの名前」「ロボットの特徴」などを紙に書き出し、その後、実際にロボットを製作する。そのベースとなるロボットが、今回のテーマであるembotだ。ダンボール製のembotは非常にカスタマイズがしやすく、色をぬったり、追加のアイテムを取り付けたりできる。さらに、手や耳にあたるパーツを別の場所につけることも可能だ。
しかも、今回のワークショップは、作ったロボットの中から優勝作品を決めるというコンテスト形式であることが、当日のこの場で知らされた。制作時間は40分。ダンボールシートからの組み立てから、オリジナルロボットへのアレンジまでを完成させなければいけない。
ロボットの製作が一通り終わったところで、次はプログラミングに挑戦する。embotは専用のプログラミング学習アプリが用意されているが、一般的なブロック型ではなく、フローチャート方式なのが特徴だ。
開発者の額田氏によると、「フローチャート式は、プログラミングと相性がよい。ブロックプログラミングを初めて触ったとき、コマンドが一列にたくさん並んでいて、何があるのか非常にわかりづらかった。フローチャートは、実際の開発現場でも活用されており、他の人のプログラムを見やすい点も利点」だと話す。
embotのプログラミングには、5段階の難易度があり、ユーザーや目的によってレベルを選ぶことができる。ちなみに、レベル5になるとかなり難易度が高いため、小学校での学習にはレベル3までがよいという。しかし、今回は大人の先生が対象ということもあり、いきなりレベル4からスタートした。
「プログラミングに欠かせないのは、条件分岐とループ」と、額田氏がプログラミングの解説を行うなか、先生たちは真剣な顔でタブレットに向かってプログラミングに挑戦していた。
10分ほどでプログラミングの時間は終了。コンテストにはエントリーした9人が前に出て、それぞれの作品を披露した。2つのキーワードをもとに、短時間で製作からプログラミングまで仕上げるという、なかなか難しい課題だったが、それぞれ工夫を凝らしたロボットが披露された。
ワークショップの後、embotが実際の授業ではどのように使われ、どんな作品まで応用できるのかという実践事例として、授業実施事例と作品事例が紹介された。
最初に紹介されたのは、栃木県大田原市立大田原小学校の授業事例だ。同校では、「大田原市をロボットで変える」をテーマに、embotを使った活用例を生徒たちが考える授業を行った。
たとえば、「花壇にembotを紛れ込ませて監視する見守りロボット」や「そうじロボット」など、embotの機能的には難しいものもあったものの、誰かしらの役に立つ工夫を子ども達が考え工夫を行っていた。中には「先生を助けるために、連絡帳にハンコを押すロボット」といった、子どもらしい発想もあった。
東京都江戸川区立東小松川小学校では、学校公開日にembotを使った授業やクラブ活動を実施し、保護者からも「子どもたちが楽しそうに、自分でどうすればよいか考えながらロボットを作る姿を見ることができた」など、非常に好意的な意見が寄せられたという。
また、6年生の図画工作では「ロボットダンス大会を開こう」というテーマで、校歌の音楽にあわせてembotに動きをつけるという授業例も紹介された。
作品事例では、個人での活用と、美術大学の学生による作品例などが紹介された。
登壇した下村一郎氏は、小学校の教材出版社で働く傍ら、個人で電子工作やプログラミング学習ロボットなどを研究しており、民間のプログラミング教室のサポートを行っている。多くのプログラミング教材を、ユーザーと指導者の2つの視点で試してきた下村氏がembotを選んだのには、「必要最小限の機能と配線でわかりやすく、プログラミングが直感的だった」からという。
紹介した作品は市販の紙工作のショベルカーや、レゴブロックと組み合わせたりしており、形にとらわれない柔軟な発想によって作られていた。
そして参加者に大きなインパクトをあたえたのが、横浜美術大学の准教授である辻康介氏が紹介した「大人のembot改」の作品だ。同大学で彫刻やプロダクトデザインなどを学ぶ現役の美大生がembotを自由に改造したらどうなるかというもので、さすがにクオリティは群を抜いており、「こんなことまでできるんだ」という驚きに満ちた作品が次々と紹介された。
4つの事例紹介が終了したところで、最後に表彰式が行われた。
12人の参加者から9作品のエントリーがあり、見事優勝に選ばれたのは、群馬県太田市立旭小学校の佐藤友宣教諭の作品「呼び出しロボット」だ。
キーワードは「ウェイトレス」と「スマホ」で、飲食店などに設置し、ロボット経由で店員を呼び出す。選出した理由として、額田氏は「人間がやりづらいことを助けるというロボット本来の目的にかなっている。また、ストーリーもあり、審査員全員一致で決定した」と話した。
今回は、単なる教材の体験会に留まらず、授業事例や作例なども紹介されたことで、実際の授業にも組み込みしやすいイベントとなっていた。
ダンボール製のembotは導入コストが安いだけでなく、低学年からも取り扱いがしやすく、かつアレンジも手軽にできるため、初めてのロボットプログラミング学習教材として非常に敷居の低いものになっている。
9月からの一般販売では、教育機関だけでなく一般家庭でも購入できる。これからembotを導入する学校や家庭が増えることで、多彩な授業事例や作例が公開され、共有されていくことを期待したい。
一般販売も開始されたembotの詳しい情報は、新しくなったembot公式ホームページでご確認ください。