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2016.7.27
2016.7.27

今だからこそ考えたい、プログラミング教育3つの視点

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EdTech Smart Labは2016年7月12日、プログラミング教育の未来を考えるイベント「子供向けプログラミング教育のいま〜プログラミング教育において大切なこと〜」を開催した。
イベントでは、プログラミング教育の第一線で取り組む有識者らによるパネルディスカッションが設けられ、同分野における現状や課題について熱い議論が交された。本稿では、パネルディスカッションの内容から、プログラミング教育が必修化に向けて動き出した今だからこそ考えておきたい3つの視点を探る。

登壇したパネリスト
・佐藤昌宏教授(デジタルハリウッド大学大学院 教授)
・渡辺弘之氏 (日本マイクロソフト株式会社 テクニカルエバンジェリスト)
・水野雄介氏 (ライフイズテック株式会社 代表取締役CEO)
・須藤みゆき氏 (レゴ エデュケーション 日本代表)

日本の子供たちを取り巻くコンピュータ環境は遅れている

そもそも、日本はプログラミング教育を必修化する以前に、子供たちを取り巻くコンピュータの環境整備がOECDの中でも遅れている。
日本マイクロソフト株式会社 テクニカルエバンジェリストの渡辺弘之氏は、こうした状況に対して「危機感を持っている」と語った。
OECDのPISA 2012調査によると、学校や家庭におけるコンピュータの設置台数は、OECDの平均値に比べて日本は低い。
家庭におけるコンピュータ台数など、先進国の日本では一見普及しているかのように思えるが、決してそうではないのだ。
何よりも驚くべき数値として渡辺氏が挙げたのが、“15歳以下の子供が家でコンピュータを使って宿題をする比率”だ。この項目については、OECDの平均が66.5%に対し、日本はたった8.1%。つまり、そもそも日本では学習にコンピュータを活用する機会が圧倒的に少ない。そんな状況の中でプログラミング教育が必修化されようとしている。

このような環境面については、文科省や総務省が予算を設けて進める計画があるが、スピード感を持って取り組まなければならないだろう。

諸外国は“プログラミング教育”の導入ではない

日本でプログラミング教育が必修化される背景には、IT人材不足がある。世界各国も同様の課題を抱えており、自国の教育課程にコンピュータを学ぶカリキュラムや教科を導入する動きがある。
ただし、「諸外国では、日本のような“プログラミング教育”の導入が進められているわけではない」と渡辺氏は指摘した。
諸外国では6C(Communication, Collaboration, Critical Thinking, Creativity, Curiosity, Computational Thinking)とよばれる21世紀型スキルの中のひとつにComputational Thinkingがあり、小学校段階では21世紀型スキルのひとつとして学ぶべきものとして位置づけられているという。
その後、中学・高校の段階になってSTEM教育とよばれる理系の教科が登場し、Computer Scienceを学ぶ。渡辺氏は「プログラミング教育を語るときは、小学校、中学校、高校、大学と分けて語ることが大事なのではないか」と指摘した。

渡辺氏の発言を受けて、デジタルハリウッド大学大学院の佐藤昌宏教授は、
「プログラミング教育は、民間と公教育、それぞれ分けて議論すべきではないか」と投げかけた。
というのも、民間と公教育では、プログラミングの定義や学ぶ目的が異なるからだ。
なかでも公教育におけるプログラミング教育に関しては、イギリスやアメリカの場合は「Computing」もしくは「Computer Science」という教科を導入しようとしているのに対し、日本の場合は新たな教科が設けられるわけではない。(※日本は各教科の中でプログラミングを教える)
プログラミングという手段だけを導入するのではなく、新しいモノを作りたい、社会を変えたいなど、子供たちに興味やモチベーションを与える方が重要だというのだ。

プログラミングを学びたい・学ばせたいと思える環境が重要

プログラミングスクールやキャンプを運営するライフイズテック株式会社の水野雄介氏は、プログラミングを学ぶ必要性を議論することも大事だと話す一方で、「子供たちがプログラミングを学びたくなる環境について考えていくことが教育者の仕事ではないか」と指摘した。

同スクールの場合、最初からプログラミングを学びたいという子供が集まっているわけではないという。Life is Tech! ではゲームや音楽、デザインなど、コンピュータを使って何かを作ってみたいと子供たちが思えるコースを多く用意しており、そこから発展して、各自の興味に応じたプログラミングを学ぶ環境づくりに努力しているという。
最初は“なんとなく面白そう”という感覚ではじめた子供たちが継続して学ぶ中で、“プログラミングを学ぶ必要性”を明確にしていくことが重要だといえる。
長年、プログラミング教育の取り組みを続けるレゴエデュケーション 日本代表の須藤みゆき氏は、子供たちがプログラミングを学ぶ環境について、「大人の関わり方が重要だ」と述べた。
なかでも、プログラミングを学ぶとどのような大人になるのか、親が見て分かりやすいロールモデルが必要ではないかと話す。一過性で終わらないプログラミング教育を提供していくためにも保護者や教育者の理解が欠かせないというのだ。

ロールモデルといっても、プログラマーのロールモデルではない。
必要なのは「テクノロジーを使って問題を解決したり、表現できる人だ」と佐藤教授は話す。
その一方で、子供にプログラミングを教える指導者不足が大きな課題であるため、民間教育が公教育を引っ張っていく必要があるとの指摘もあった。
渡辺氏はこれについて「民間がプログラミング教育をリードしていくのもいいが、経済的に恵まれた家庭の子供だけがプログラミングを学べる環境は望ましくない」と指摘した。学校にいけば誰もが自由に使えるコンピュータがある。それを提供できるのは公教育だけであり、プログラミング教育は公教育で広がっていくことが重要だと強調した。
佐藤教授も、深刻なのは保護者のリテラシー格差だと指摘した。受験に関係ない、プログラマーにならないから学ぶ必要はない、なども意見も多いため、プログラミングに対する理解がさらに求められると語った。
2020年のプログラミング必修化に向けて、課題は山ほどある。
公教育における授業実践も少ないため、まだまだ表面化していない問題もあるだろう。

より良い教育を目指して

2020年に向けて今から出来ることは何か。関係者たちは手探りで動き始めている。
それぞれの動きを大きなうねりに変えていくためにも、同分野の関係者らがつながりを作っていくことも重要だ。

■公開資料(登壇者の方々からご提供いただいた資料です。大切にお取り扱いください。
・渡辺氏 パネルディスカッション用資料
・須藤氏 パネルディスカッション用資料

神谷加代