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2017.6.26
2017.6.26

未来の教科書「教科書AR」とは?

AR    

最先端技術として注目されているAR。これを用いたアプリケーションなどはすでに多数開発・リリースされていますが、教育に用いた教科書ARというものがあるのをご存じでしょうか。出版社やアプリ開発会社などが合同で開発を進めている教科書ARは、今後の学習環境や学習スタイルを大幅に変える可能性があります。家庭用ゲーム機など話題となったVR(ヴァーチャルリアリティ)は有名ですが、ARに関してはよく分からないという人も多いと思います。そこで、ここではARの基本から、具体的な教科書ARの解説までを取り上げていきます。今後学校などでも順次導入されていく可能性のある未来型教科書。ARの技術を用いることによって学習効果にどのような影響をもたらすのでしょうか。

そもそもARとはなにか?

ARとはAugmented Realityの略で、日本語では拡張現実と表現されています。拡張現実という言葉からも分かる通り、ARでは現実に見える世界に対して付加情報を与えるものを指します。例えば、絵本に描かれている動物の絵をタブレットなどの特定の端末を通して見ることによって、2次元だったはずの動物の絵が3次元の立体になって飛び出してくるといったようなものです。ARは、あらかじめ登録されたマーカーと呼ばれる特定の対象物を専用のカメラなどで読み込むことによって作動します。一般的にこのようなAR技術のことをロケーションベースARなどと呼びますが、一方で最近ではマーカーが必要ないマーカーレス型ARなども増えてきています。
これはマーカーを目印にするのではなく、現実世界にある空間の特徴を解析・認知してマーカー代わりにするというメカニズムです。ARの技術はすでにさまざまなところで利用されており、企業のパンフレットや名刺、スマートフォン用のアプリケーションなどで実際に使われています。具体的には、名刺の裏にAR用のマーカーが印刷されており、それを専用のカメラで読み込むことによって、従業員の顔やキャラクター、アイコンなどが3Dで飛び出してくる仕組みや、家具の販売を行っている会社ではパンフレットに掲載されている家具の写真を専用のカメラで読み込むと立体的に映し出される仕組みなどがあります。
ちなみに、子どもを中心に世界中で大人気になり、日本でも社会現象にまでなったポケモンGOなどは、典型的なAR技術を応用したゲームになります。このような活用事例のほかにも、医療の分野や軍事の分野から注目されており、今後ARを応用させた最先端技術がますます登場してくると予想されています。

話題になっているVRとARの違い

ARと似たものにVRというものがあります。近年はVRを家庭用ゲーム機に採用させたものなども発売され、大変な話題を呼びました。言葉の響きもそうですが、実際にARとVRを調べてみても似たような概念で、なかなか違いが分からないという人も多いのではないでしょうか。
ARとVRの最大の違いは現実世界の位置づけです。ARはあくまでも現実世界に重点を置き、そこに別の情報を付加するものですが、VRはまったく新しい仮想の空間のなかに入り込みます。VR(Virtual Reality)は、日本語では仮想現実や人工現実感などと表現されています。
この名前の通り、現実世界とは全く違った仮想現実を作り出すものがVRなのです。見方を変えれば、その世界を見ている人の立ち位置の違いとも表現できるでしょう。VRの場合には仮想現実というリアリティ溢れる新しい世界にユーザー自身が飛び込むような体験をしますが、ARの場合にはあくまでもユーザー自身は現実世界に身を置きます。そして、現実世界からそれに付加される情報を見ているにすぎません。
よくARとVRを混同して比較しているものも見かけますが、そもそも全く別物であるため比較はできないというのが正しいでしょう。ARにもVRにもメリットはあります。どのような用途に用いるかによって応用される技術は異なるということです。

教科書ARってどんなもの?

教科書ARとは、今まであった既存の教科書に対してAR技術を応用させたものです。未来型教科書とも呼ばれており、教育業界から大変注目を集めています。すでにご紹介したように、ARは2次元のものを専用の端末やカメラなどを通すことによって3次元化することができます。
この技術を教科書に応用すれば、今まで想像することが難しかったものがより鮮明にイメージできるようになります。この技術はAR対応の教科書を購入し、無料の教科書ARアプリをスマートフォンやタブレット端末にインストールすることにより利用することができます。使い方は非常に簡単で、AR対応のページを開き、そこにある写真や図形などを、教科書ARアプリを起動させた端末のカメラで読み取るだけです。これだけで教科書にある写真や図形が目の前に立体的に飛び出してきます。

活用事例1:算数や数学のイメージが手に取るようにわかる

教科書ARがもっとも威力を発揮すると考えられているのが、算数や数学などの解説です。たとえば、算数で学ぶ体積の問題や面積を求める図形問題などは、教科書の図だけではなかなか理解しにくいところです。小学校の算数では展開図なども学びますが、立体的な図形を平面ではなく、本当の立体図として見えることで理解のスピードも大幅にかわってくるでしょう。
算数が嫌いになってしまうのは、算数をただの数字の羅列や数式の計算といった単純作業だと感じてしまうことが大きな原因といわれています。数学においても、イメージしにくい虚数の世界や方程式の世界、関数に関する問題などに関してもARを使うことで格段にわかりやすくなるはずです。理系の数学の場合には座表面上の回転体の滞積や定義域における最大最小問題、極限の問題などもよりイメージしやすくなります。
ARを使うことによって、ただの数式の計算といった無味乾燥な学問ではなく、算数でやっている計算問題はちゃんと意味のあるものだということが、自分の目で認識できることが大きなメリットといえるでしょう。

活用事例2:理科や化学・物理のイメージもつかみやすい

上記のように数学に応用できるということは当然、理科や化学、物理などの理系分野全般に応用することができます。化学であれば光の三原色や化学反応、炎色反応などをより分かりやすく解説することが可能です。
化学では実験器具に関する問題も多数出題されますが、実際に使ったことがない実験器具であってもARを通して詳細な構造を立体的に理解すれば、記憶にも残りやすいはずです。物理においては、すべての基礎となる力学において力を発揮します。
例えば、運動エネルギーや万有引力の法則などは教科書上で理解すると、どうしても理解より計算式の暗記が先になることが多くあります。公式の暗記が先にきてしまうと、算数や数学同様に公式に数字を機械的に当てはめていくだけの、とてもつまらない単純作業になりかねません。力学をはじめとする物理学というものは、本当はもっとも身近で実際に実験を通して理解をしていけばこれほど面白いものはありません。
ただ、現実問題すべての単元で実験をすることは時間的にも厳しいことは明らかです。そんなときにARがあれば、各自がそれぞれタブレット端末を持ち、対象の写真やマーカーにカメラをかざすだけで実験をしているのと同じようなリアルなイメージ図が浮かび上がるのです。
理系科目嫌いを生み出してしまう原因のひとつでもある「何をやっているのかがそもそも分からない」といったような状況を作り出さないためにもARは効果的です。

活用事例3:歴史的建造物が目の前に現れる

ARは理系分野だけでなく、歴史の分野にも大いに役立つでしょう。今までは写真でしか見ることのできなかった教科書に載っているような歴史的建造物であっても、ARを使えば目の前に立体的に建物が現れます。
日本史では日本の時代背景を映し出す建築様式であったり、当時の人々の暮らしぶりが見て取れる独特な建物の作り方だったりを勉強しますが、教科書に掲載されている写真だけを見ているのと、ARで映し出された立体的な建物を見ているのでは理解の深さが変わってくるはずです。また、世界史についても世界遺産に登録されている建物や構造物などを多数学びますが、これらもARを使えば手に触れられるかのようにリアルな建物が現れます。
このように、ARを使えば理解を深めることはもちろん、そのもの自体に興味を持ちながら楽しんで勉強ができるようになります。子どもの好奇心を刺激して、「なぜ?」「知りたい!」といった気持ちを起こさせることによって、学習が身に付く度合いも大きく変わってくると期待されています。

活用事例4:GPS機能を利用したARも活用できる

ここまで見てきた教育への活用事例は主に画像認識型のARでしたが、ARのなかにはGPS機能を利用したものもあります。これにはすでにリリースされているアプリにもあるように、その端末がある場所をGPS機能により解析し、そこから見える星や星座などの天文図を表示するといったものが代表例です。もちろん、このようなアプリで用いられている技術で天体に関する学習を行うことができます。また、GPS付の携帯端末を利用することで、その地域の有害物資の存在や測定を行うアプリケーションもあります。これらを教科書と連携させることによって体で体験しながら学ぶというスタイルが確立されることでしょう。

ARに期待される教育への影響

ARが教育現場に採用されたのは、学習の理解を促進するためというのがもっとも大きな理由です。しかし、これから本格的にARによる学習が進んでいくと、どのようなことが期待されるのでしょうか。平面よりも立体の方がよりイメージしやすいということは、当然それだけ創造力も掻き立てられます。そして、それに興味を持てば小さい頃から「どうしてだろう?」という疑問を積極的に持つことにもつながるかもしれません。
この点から考えれば、教科書ARを先駆けにするARによる学習は、創造力を伸ばす教育の実現や思考力を磨く教育の実現に貢献する可能性があります。創造力や思考力というものは、日本が教育のなかで育んでいきたいと古くから考えている力でもあります。このような力を伸ばすことによって、世界に通用する学者やビジネスマンが数多く誕生するかもしれませんね。

ARの可能性と今後の展望

ここまででARを用いた教育や学習のメリットが見えてきたことでしょう。その先駆けでもある教科書ARは、年齢が低ければ低いほど好奇心を抱きやすく、楽しんで学習ができるとても良いツールだといえます。現在はタブレットをかざしながらARを楽しむというスタイルですが、大手IT企業などがウェアラブル端末を開発しているように、わざわざ端末をかざす必要なくARを楽しめる世界になる日も近いでしょう。最先端技術のARを用いた教育が広まるのは、実はとても近い未来なのかもしれません。

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