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2019.1.9
2019.1.9

キーパーソンが未来の教育を語る-私塾界「教育ICTカンファレンス」トークセッション

プログラミング教育への関心は、2020年から学習指導要領が実施される学校現場だけでなく、私教育にも広く浸透しています。中学受験などを目的とした進学塾でプログラミング教育を取り入れたコースも開講されており、今後も民間でのプログラミング教育はさらに広まっていく傾向にあります。

しかし、実際に行われているプログラミング講座の内容は、プログラミング的思考の育成をメインに考えているものから、実践的なテクニックを学べるものまで実に様々です。この多様さの理由のひとつが、プログラミング教育そのものについての捉え方の違いにあるともいえます。

そんななか、私塾界が開催している「私塾界リーダーズフォーラム『教育ICTカンファレンス2018』」において興味深いトークセッションが行われました。10月28日に行われたこのセッションでは、「プログラミング教育は未来を変えるのか?」をテーマに、COMPASS代表取締役CEOの神野元基氏、キラメックス代表取締役社長の樋口隆広氏、楽天教育事業部ゼネラルマネージャーの葛城崇氏が登壇し、プログラミング教育から10年後の教育までを語り合いました。

左より、COMPASS 神野元基氏、キラメックス 樋口隆広氏、楽天 葛城崇氏。(写真提供:私塾界)

ITの力で教育はよくなっていく

教育の現在、そして未来をテーマにした今回のトークセッションでは、教育に関わっている3者が、プログラミングやICTを切り口に語り合いました。

楽天の葛城氏は、同社が取り組んでいる英語教育サービス『Rakuten Super English(楽天スーパーイングリッシュ)』の例を挙げ、「ITを活用することで、スキル別に学習を行うことができ、学年の壁などを超えられる。ITの力で、教育はよい方向に変えられる」という期待を語りました。

楽天が開講した「Rakuten Super English」

また、人工知能を使ったタブレット学習システム『Qubena(キュビナ)』を開発し、学校や塾などに展開しているCOMPASSの神野氏は、「テクノロジーが子ども達に教えられることは、全てテクノロジーにまかせてもよい。人間として本質的に子どもに教えたいこと、人生で本当に学ばなければいけないことは、日本の教育ではまだ十分に届けられていない」としたうえで、「子ども達が、人生を生き抜くうえでもっとも大切なことを教えられるように、先生が集中できる時間を作りたい」として、Qubenaの開発を行った経緯を話しました。

小学校から中学校までの算数・数学を学べるタブレット型学習システム『Qubena』。学年の枠を超えて、一人一人の進度や理解度に沿った学習が可能になる。

さらに、神野氏は「目の前にある社会的な問題を自分なりに解決していく人材こそがこれからは必要。社会的な問題は地域に根差していることが多い。自分で問題発見から解決のサイクルをどんどんまわしていくような教育を受けた子ども達は、その後地方を離れたとしても同じことができる」と解説し、地域社会に根差した教育の大切さを語りました。

地方においては、地域による教育格差についても問題になっています。オンラインのプログラミング学習講座や、子ども向けプログラミング教室のカリキュラムや学習のサポート環境を提供しているキラメックスの樋口氏は、「オンラインのシステムを全国の塾などに導入を進めることで、どこにいても同じ教育を受けられるのがメリット」とし、全国で同じ教育を受けることで、地域の問題解決への新たな糸口になるのではと語っています。

それに対し、葛城氏も、「遠隔教育もそのひとつで、距離を感じさせないというメリットがある。そういったITを活用し、今後は地域の持っている課題を解決していきたい」と抱負を語りました。

これからの教育でもっとも変えていくべきこと

次に話題に上がったのは、「これからの教育現場に求められること」です。
学校や民間教育の現場で変えていくべきことと、変えてはいけないことについて、樋口氏からは、「教育現場も、どんどんアウトソーシングしていけばいい」という提案がありました。「今回登壇している3社とも、テクノロジー活用して、最適な形でソリューションを提供している。教育現場もどんどんアウトソーシングして、そのぶん、しっかり現場で子どもの目を見て、向き合うことに時間を使ってほしい。本気で子どもに接することができるのは、現場の先生だけ」と、アウトソーシングでのメリットを強調しました。

また、神野氏はこれまでに企業が求められてきた人材と、現在求められる人材との違いについて話しました。

COMPASSの神野元基氏。シリコンバレーで起業していたが、シンギュラリティに出会ったことをきっかけに、子ども達が”未来を生き抜く力”を身に着けられるよう、日本で教育への取り組みを始めた。(写真提供:私塾界)

「1989年の世界時価総額ランキングの上位5位がすべて日本の企業で占められていたとおり、これまでの日本の教育から排出された人材が非常に優秀だったことを物語っている。戦後の日本の教育は、経済界が求める人材にアジャストされていき、100人が100人同じクオリティをもつことが求められてきた。しかし、現在のランキングでは日本企業が10位以内にも入っておらず、時代がはっきり変わったことがわかる」
現在は、「自分の問題に気付いて解決できる」「周囲にインパクトを与えられる」ような人材こそが求められており、時代のニーズに従って教育を変えていかなければならないことを、神野氏は強調しました。
しかし、一方で日本の教育が本来もっていた道徳心や教科教育、生徒指導、保護者をふくめた地域教育、先生が心の教育までをしている教育の良さは変えるべきではないともしています。

「ものの仕組み」を知る事は社会の現場でも役に立つ

葛城氏は「教育を通じて、ITやプログラミングに興味・関心をもってもらうことができる。基礎的なITスキルは、身に着けておいたほうが理解は深まる」と話します。そして、実際のエピソードとして、楽天で行っている6カ月間にもおよぶ研修の例を紹介しました。
楽天で新入社員が行った研修は、ただプログラミングを書くだけではなく、実際にユーザーにインタビューを行い、課題を見つけて解決していきます。「正直、新入社員には難しいだろうと思っていたところ、予想を超えるすばらしいプロダクトが完成した」と言います。
「若手であっても、課題を見つけ、課題解決のために自分たちが動くことで、プロダクトを作り上げることができた。理系文系が入り交じり、研修中にはそれぞれ葛藤もあったようだが、そこでコミュニケーションも学ぶことができた」と、プログラミング研修のメリットを語りました。

楽天の葛城崇氏。楽天で教育事業を担当しているほか、スマホ向け英語学習アプリの開発・運営を行うReDucateの代表取締役社長も務める。文部科学省に出向し、英語教育改革を担当した実績をもつ。(写真提供:私塾界)

さらに、楽天の新入社員が、プロダクトチェックのバグを見て「このバグはすごく簡単に直せる、こちらはすごく時間かかる」と、判断することができたというエピソードで、「文系でエンジニアでない社員でも、コンピュータは何が苦手で何ができるかを理解していると、様々な場面で応用ができる。ツールとして、基礎としてプログラミングの知識があることは大事だと思う」と、葛城氏は話しました。

樋口氏も、「仕事相手が人間からロボットへ変わりつつある時代において、ロボットと共通言語もつのは圧倒的なアドバンテージになる」と、プログラミングの知識の重要性について同意しました。

社員研修の講座などを行っている樋口氏によると、プログラミング研修を受ける層が近年になり変わってきたといいます。
「元々プログラミング研修はIT系の技術職が受けるものだったが、最近では経営者や、プログラミングを勉強して社内環境を改善させたいという方も受けるようなった。エンジニアを採用することで生産性が上がるということが、多くの会社で理解され始めてきたのだと思う」

それに対して、神野氏は「保護者でも、そのように考える方が多くなった」と話します。「いわゆる最新技術に敏感な“アーリーアダプター”と呼ばれる方々の家庭では、プログラミングや、ロボットなどを取り入れた新たな学びに挑戦している」
学習塾でも英語でプログラミングを学ぶ教室なども登場しており、保護者のニーズが中心となる民間教育でも、ICT活用へ向いていることを神野氏は語っています。

10年後の教育は原点に戻る

神野氏は、教育現場の観点から10年後の教育について以下のように語っています。
「先生の多忙化や、学習塾のブラックバイトなど、教育の現場では働き方改革の問題に直面している。進化し続けているテクノロジーが、その問題に貢献できるだろう。また、子ども達については、今後はどんな成長をしているのか、どんな勉強しているのかといったことがデータでわかるようになる。そのデータを上手に使いながら、適切な声がけできるようになり、教育者の長年の経験でわかる勘のようなものが、適切なデータで出てくるだろう」

宿題の管理においても、データを使えば簡単に行えると神野氏は話します。
「集中力が落ちているころや機微もとらえて、保護者、生徒との人間関係に踏みこんでいける先生が増えていく。実は、先生は元々そうした相談役であった。つまり、テクノロジーを活用することにより、昔の日本の教育がまた新たな形として戻ってくるのでは」と、期待を語りました。

未来の教室に思い描く、これからの教育の形

最後に出たテーマは、「未来の教室のつくりかた」です。
これに対し、葛城氏は「ゲームについては賛否あるが、“ゲーミフィケーション”もひとつの方法」と語りました。「グループ会社で運営している英語学習アプリ『えいぽんたん』などは、ゲーム要素を入れて楽しく興味関心をもってもらう作りになっており、学習のひとつの在り方ではある」と話します。

樋口氏は「子どもと接する時間を増やせば、必ずいいものができる」とし、「テクノロジーの力で、時間を増やすべく最適化していくべきだが、上場してる教育系の企業は利益率が低くなってしまっている企業もあり、まだまだ最適化出来る部分があるのではないかと感じる」と、今後の課題についても話しました。
そして、「子どもが勉強して、わからないことを先生に聞くという手法は、もともとは大人向けだったが、実はとても効率がよい。わからないところをピンポイントで聞けるため、習熟度も良いという結果になっている」と、その解決法を提案しています。

キラメックスの樋口隆広氏。2017年に同社の取締役社長に就任し、小学生向けプログラミング教室のフランチャイズパッケージ『TechAcademyキッズ』をリリースした。(写真提供:私塾界)

また、神野氏は今後の教育の在り方として、社会との結びつきを挙げています。
「本当に大事な学びは、過酷な状況のギリギリのところにあるかもしれない。しかし、日本では怪我や事故につながるとして、思い切った指導はすることができない。今後は、保護者と本当に密接になり、保護者も社会の一員として教育の現場に参画していくような、社会との結びつきが望ましい」

社会とのつながりについては、樋口氏から「現在は、社会とのつながりが薄く、大学で勉強したことが役に立っているのか、個人的に実感が少ないと感じている」という意見が出ました。
その解決法のひとつとして、「プログラミングしたアプリを世に出すことも、ひとつのつながりになる。国語で勉強した言語で話すことも同様だ。机上だけではなく、社会とつながるということを、年齢の低いうちに体験することで『これがおもしろい!』という発見があるかもしれない」と語りました。

そして葛城氏は、「昔は情報を得ることも難しかったが、現在はネットが発達して、情報を得たり、遠方の人とコミュニケーションを取り、ものづくりをしたりすることが簡単にできるようになった。知識を学習し、情報を得て課題を解決していくのが大事だと感じられる環境が作りやすくなっている」と話します。
さらに、「究極的には、児童・生徒が『勉強をやると自分の役に立ち、成長につながる。世の中の役に立つ』と気付いてほしい」と、思いを語りました。

セッション後の質疑応答では、学校や予備校の先生などから、遠隔授業についての質問が多数あがりました。「遠隔で授業を行う際、生徒に対してどのような点に気をつければよいか」という問いに対し、オンライン授業での実績をもつ樋口氏からは、「テストしてみた結果、すべてを遠隔にしてしまうと成り立たないケースがあることがわかった。専門的な部分は専門家にまかせ、現場では先生が勉強しているところをしっかり見るというすみわけが大切」との回答がありました。

平日の午前にも関わらず、全国から教育関係者が参加し、熱心に聞き入っていた。(写真提供:私塾界)

カンファレンスには、全国の私塾をはじめとした民間教育の関係者だけでなく、学校の先生なども参加し、会場は満員でした。変わっていく教育について、最もとまどっているのは現場の先生方かもしれません。

2030年の教育が、テクノロジーによって、先生方の働き方改革が行われ、それによって子ども達が楽しんで学べるよりよいものになっていくことに期待していきたいと思います。

相川いずみ 相川いずみ