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2019.3.20
2019.3.20

短期連載 第3回:『ルビィの冒険』作者のリンダ・リウカスさん来日記念インタビュー

2018年12月、プログラミング絵本『ルビィのぼうけん』の作者であるリンダ・リウカスさんが来日し、各地で来日記念イベントが開催されました。

この短期連載ではこれまで、『ルビィのぼうけん』を使った親子向けのワークショップ、教員カンファレンスの様子をご紹介してきました。最終回の今回は、リンダ・リウカスさんに色々な質問にお答えいただいたインタビューについてお届けします。


プログラミング教育を通じて子どもたちをどのように教育したいのか

――まず最初に、フィンランドでのプログラミング教育の現状を教えてください。その中で、他国より先駆けてできていること、そして課題だと感じていることはなんでしょうか。

(リンダさん)フィンランドでは、エンジニアリングの文化や資産的な価値、教育などの分野を重視していて、複数の異なる学科にまたがったプログラミング教育を導入しています。技術的な精神を育むことも大切ですが、それと同時に、多様性を受け入れ、様々な問題の解決方法を持つ人たちと協力する姿勢を育てていくことも大切です。

どの国もみな異なるので、多くの国と仕事をすればするほど(著書は25ヶ国語に翻訳されている)、教育に「万能薬」はないということを痛感しています。たとえば、どのようにプログラミング教育を行ったらよいかと尋ねられることがよくあるのですが、そういった難しい議論をする際、私はいつも「子どもたちをどのように教育したいのか、教育を通してどんな市民に育つのか」という意味に置き換えて考えるようにしています。以前は、教育における変化の遅さに不満を感じていたこともありましたが、今では、そう簡単に変えられないのは制度なのだということが分かり、嬉しく思っています。むしろ、異なる利害を持つ人たちが自らの考えを声にしながら、コミュニケーションを通して理解を醸成していくことが大切なのです。

そうはいっても、強調したい点はいくつかあります。

1) たとえば、英国ではとても厳格で大胆なコンピュータ教育を行っていて、私自身はそれがとても素晴らしいことだと思っています。コンピュータについて、英国には長年培われてきた伝統や遺産があり(世界初のプログラマーと呼ばれるエイダ・ラブレス、数学者のアラン・チューリング、計算機科学者のティム・バナーズ=リー、シングルボードコンピュータのラズベリーパイなど)、彼らがこれまで学んできたことの多くを世界の他の国々と共有している点がとても素晴らしいと思うのです。

2) オーストリアには、とても素晴らしい創造性に富んだコンピュータ・カリキュラムがあり、その中には職業訓練的な要素も数多く組み込まれています。

3) 米国では、幼稚園から中学までを対象としたコンピュータ・サイエンス教育の枠組みが公表されました。これはとても分かりやすく、コンピュータプログラムやネットワーク、社会に関する事柄など、私たちが教えなければならない様々な内容を明確に示しています。どの国も、この内容を読めば役立つと思います。

4) 韓国では、先生たちがグループで取り組む活動や、コンピュータ教育の中で行っている独創的で楽しい授業がとても印象的でした。


『ルビィのぼうけん』は子どもたちが物を創造する手段としてのプログラミングを理解する手助け

――今回、シリーズ第三弾が発売されますが、『ルビィのぼうけん』シリーズにおいて、もっとも気を付けていること、こだわっている部分はなんでしょうか。

この本の着想は、小さな男の子と話しているときに得ました。男の子から「インターネットってどこかにある場所のことなの?」と聞かれたとき、私は答えることができませんでした。私には、目に見えないものを説明する言葉がなかったからです。

インターネットも黎明期の頃に比べて随分と変化しました。今の子どもたちは、当時と比べて商業的になったインターネットの中を、どのように進んでいけばよいかを学ばなければなりません。とはいえ、未来のインターネットも、もしかしたら今とは全く別の形、たとえば、コピーマシンとか、滑走路、タイムカプセル、スペースシャトルのようになっているかもしれません。

確かにインターネットの世界は見えないものですが、どこにでも存在します。ほとんどの人にとって、インターネットの実像を定義することは容易ではありません。この本では、インターネットがどういうものなのかを3つの異なる視点から説明しています。インターネットの構造について、インターネットのプロトコルはどのように機能するのか、インターネットは人々にどのようなサービスを提供するのか、という3点です。

――リンダさんにとって、ルビィはどんな存在ですか?

『ルビィのぼうけん』では、好奇心や楽しみ、驚きといったものに着目し、カラーペンやレゴのブロックを用いながら、子どもたちが物を創造する手段としてのプログラミングを理解する手助けをしています。

この本を書き始めたころ、教授法について私はほとんど理解していませんでした。プログラミングは楽しんでいましたが、ピアジェ(訳注:ジャン・ピアジェ。フランスの心理学者)とパパート(訳注:シーモア・パパート。 アメリカの計算機科学者)を混同していましたし、コンピュータ的な考え方と(演劇・美術の)構造主義がどう違うのかなどについても分かりませんでした。ただ単に自分が創りたい世界に対する強いイメージを持っていただけです。当時の私にとって、コンピュータは魔法のようなもの、魅力的で想像力を掻き立てられるものでしたが、コンピュータを教える当時の教材は退屈で、面白味を覚えることはありませんでした。

コンピュータの学習というと、外で遊んだり社会経験を積んだりすることを放棄して、コンピュータの前に座ってするものと考えがちです。森の中で遊ぶことは、私の子ども時代のとても大きな部分を占めています。ですので、それを将来の子どもたちから奪ってしまおうなどとは考えていません。人間というのは、多くのことを同時に行うことができるものです。コンピュータのように2進法ではないのです。つまり、子どもたちは森の中で遊びつつ、同時に、森の木の中にセンサーが埋め込まれたらどうなるだろう、と考えることもできるし、CADのプログラムを使って木の家の作り方を学ぶこともできるのです。

コンピュータ的な考え方のコンセプトは、それが私たちの周りに存在していると理解できればより魅力的になります。私はモンテッソーリ教育に刺激を受けて、コンピュータ・サイエンスを子どもたちが理解できるよう具体化・明確化することを行ってきました。コンピュータの具体化には何千通りもの方法があるからです。


コンピューターを学びながら様々なアイデンティティーを受け入れることができる子どもに

――リンダさんの他の活動や、ご自身についても教えてください。まず、コンピュータに目覚めたのは20代になってからとのことでしたが、どんなことがきっかけでしたか。ご家族は理系派だったとのことですが、もっと早くに目覚めておけば……と感じたことはありますか。

両親は様々な面から支えてくれました。テクノロジー分野の仕事を選ぶよう強要されたことはありません。両親は私が興味や楽しみを見出せるように手助けしてくれました。

まだ幼かった頃、父が自宅用にラップトップコンピュータを1台買ってきました。1990年代初めの頃だったので、コンピュータはとても高価なものでした。それは、重要なファイルが入った、父の、仕事用のラップトップです。にもかかわらず父は私やきょうだいたちに、「コンピュータを使えば復元できないことは何もない」と言っていました。まだ Dropbox(ドロップボックス)のような自動的なバックアップシステムのない時代でしたので、父のこの言葉はとても大胆な考えだったと思います。結果として、私は何度かウィンドウズを壊してしまったのですが、直し方も学ぶことができましたし、コンピュータに対しても物怖じしなくなりました。こうした経験が、今私がやっていること全ての土台になっているのだと思います。

本は全て母に捧げるつもりで書いています。何をするにも、私にとって母が全ての礎であり指針なのです。母は私の第一の批評家で、私の目が技術的な面にばかり向いていると、子どもの頃の魔法を思い出させてくれるのです。

――好きな/あるいは注目している技術や、スマートトイ、プログラミング教育のツールはありますか。あれば教えてください。

プログラミングを教える先生は、同時に優れたプログラマーでなければならないと思っています。教えるにあたっては、忍耐強さ、創造性、好奇心などが必要です。単に知識を伝えるのではなく、よい質問をして、生徒たちに自ら考えさせることが重要だからです。私自身、たくさんの選択肢がある状態が好きで、そうすると、たった一つの簡単な解決法などないということを思い出させてくれます。私たち人間はみな一人ひとり違うので、誰かにとって上手く機能することも別の人には上手くいかない場合もあるからです。
そうですね、個人的に気に入っているのは、キュベットという、KANOコンピュータからハードウェアとして出ているプログラミング用のロボットと、Scratch がよいと思っています。

――日本でもレイルズガールズのイベントなどが開催されていますが、世界各国でどのように活動が広がっていったのでしょうか。また、設立以降、印象に残ったエピソードなどがあれば教えてください。

レイルガールズを立ち上げたのは、誰でも自由に参加できるオープンソースのコミュニティーからでしたが、それが世の中に広まったのは、人々がその活動を通して自分自身を変えられると実感できたからだと思います。この10年で数え切れないほどたくさんの人と出会いましたが、みな、新しい仕事が見つかったとか、天職に巡り会えたなどと話してくれます。中にはイベントを通じて結婚相手が見つかったという人もいます。

――リンダさんは、たくさんの肩書きをお持ちで、ご自身でも「肩書きに縛られたくない」とおっしゃっていました。日本でも、最近になって「パラレルキャリア」が注目されています。子ども達に対して、今後はそういった働き方も選択の一つとして増えていくことをどんな風に伝えたいと思いますか。

今32歳になって思うのですが、振り返ってみると、22歳の頃の自分より、12歳の頃の自分のほうが、たくさんのことに興味を持ち、輝いていて、可能性に満ちていたような気がします。22歳の頃の冒険をしない自分に対しては、12歳の頃に抱いていた子どもらしい楽しみや活気を見出すことでしか、本当の意味での達成感は得られないと伝えたいと思います。自分自身の可能性や好奇心に踏み出そうと決意したときから、私は前に進み出すことができました。自分自身の考えに矛盾のないように生きることが、自分を幸せにする仕事につながる唯一の方法なのです。

子どもたちには、人間にとって将来どのようなスキルが必要になり、コンピュータがどのような分野で役に立つのかを学んで欲しいと思っています。加えて、子どもたちには、複数の職業を持つという観点から自分自身を想像してみることを勧めたいと思います。私自身、絵本作家でありイラストレーターでありプログラマーでもあるので、どこかにきっと、バレリーナ兼生物学者兼プログラマーという人もいるはずです。様々なアイデンティティーを受け入れることができる子どもは、将来とても柔軟な大人になれると思います。


先生方がこの本を土台にご自分の経験を織り交ぜながら教えているのに感動

――日本のICT教育、プログラミング教育については、どのようなイメージをお持ちですか。

1990年代に子どもだった私にとって、独創性とテクノロジーが組み合わされたものといえば、ポケモン、ニンテンドー、たまごっちなど、日本からやって来るものばかりでした。

ですので、日本の皆さんが、自国のテクノロジー文化がいかに素晴らしいもので、どれほど世界の人々に影響を与えているかといったことを認識していないのはどうしてなのか、いつも理解に苦しんでいます。

今回の来日でとても感動的だったことのひとつは、『ルビィのぼうけん』を教材として使っていらっしゃる先生がたくさん増えたことです。最初はとても小さな活動だった『ルビィ』も、2016年にはとても大きなムーブメントになりました。先生方がこの本を土台にご自分の経験を織り交ぜながら教えていらっしゃるのがとても感動的でした。たとえば、ある学校では、図書館員の方が学校の中でルビィを使った立体的な活動を行っていました。ホワイトボードで記憶ゲームをしながら、ハードウェアとソフトウェアを理解する練習をしたり、大きな地図を使ってルビィとその仲間に指令を出してアルゴリズムに関する知識を強化したりするのです。それに、小さなフィンランドコーナーにはムーミンとルビィが載っていて、とても印象に残っています。

――2016年にフィンランド大使館でワークショップをされたときと、2年後の今回のワークショップでは、どのような違いが感じられましたか。

以前よりもルビィに対する理解が深まっていると思いました。本も3冊出ていますので、中には5歳から8歳までルビィで育った子どもたちもいるのではないでしょうか。日本の小さな男の子が、お気に入りのキャラクターはルビィだと嬉しそうに話すのを見ると、私まで嬉しくなります。世の中が少しずつ変化していることを実感できる素晴らしい機会だからです。また、プログラミングや問題解決において、男の子たちが女の子を自分のロールモデルと考えることができるというのは、それこそまさにフェミニズムの実践です。

問題解決のアプローチを理解することを早い時期から学ぶべき

――日本でも、「アンプラグド」を活用したプログラミング教育を授業に取り入れている先生が増えていますが、アンプラグドのメリットとデメリットを改めて教えていただけますでしょうか。また、そこからコンピュータを使ったプログラミング学習への移行はどのように行っていくとよいでしょうか。

通常は、『ルビィのぼうけん』よりもScratchやcode.orgのようなカリキュラムを勧めています。特に幼い子どもの場合、シンタックスの間違い(たとえば、セミコロンの入力漏れやミスタイプなど)をしても、なるべく落胆しないで済むコンピュータ言語を選択することが重要です。自分自身を表現することに集中できる言語を選ぶのです。でも、それは大人にも言えることだと思います。私自身も C#言語のプログラマーになれるなどとは思っていませんし、私の脳はそのような考え方はまったくできません。ルビィは、私が強力だと感じた最初のプログラムで、私の問題構築のやり方に適していたのです。プログラミングは決して機械的で一方的な問題解決の方法ではなく、むしろとてもクリエイティブで、芸術的といってよいほどのプロセスを持っているということを、私たちは忘れがちです。

『ルビィのぼうけん』から熟練したプログラミングにつなげて行く道筋については、私もまだ模索中です。今後の人生でこの問題に取り組んでいきたいです。

――2020年に、日本でも小学校でのプログラミング教育が始まります。それについて、まだ教育現場である学校の先生たちは、とまどいを感じていたり、何をしたらよいのか考えあぐねたりしている方も多いようです。そんな先生たちへ、アドバイスをいただけますでしょうか。

プログラミング教育について、2つ強調したいことがあります。一つは、ソフトウェアの開発では、共同作業が不可欠だということです。様々な知識や技能を持った仲間とのチームワークが必要だからです。もう一つは、問題を解決する際、たいていは、実に多くの異なる選択肢があるということです。ですから、様々な問題解決のアプローチを理解することを早い時期から学ぶようお勧めします。アルゴリズムの概念を理解しても、挑戦し続ける粘り強さやプログラムを実際に応用する創造性がなければ、大した役には立ちません。

――また、家庭でプログラミングを意識した育児や教育を行いたいと思った際、どのような点に注意したらよいですか? やってはいけないことなどもありましたらお教えください。

去年の夏、日本のテレビのシリーズ番組、『はじめてのおつかい』を観て、とても気に入りました。この番組は、テクノロジー化が進む世の中における子育ての完璧なメタファー(訳注:象徴的な存在)だと思います。
何とか自分でできるというレベルの課題を通して、子どもは街の中を行ったり来たりしながら、自立心と社会的信頼を育みます。デジタルの世の中で大人になるということに関しても、同じことが言えると思います。

――日本の子どもたちへ、メッセージをお願いいたします。

子どもたちが絵を描いたり、手紙を書いたり物語を創ったりするとき、ルビィが刺激になっているのを見るととても嬉しいです。それと、フィンランドを知っていただく機会にもなりますし。できればもっとたくさんの本を書きたいと思っています。日本で次に出版される本は、とてもエキサイティングなテーマを扱います。AI(人工知能)とマシン学習、それとロボットです。


「ルビィのぼうけん」を通じて、コンピューターの世界への扉を開いてくれるリンダさん。
絵本を通じて、子どもたちの創造性と好奇心を刺激し、コンピューターの楽しさを教えてくれています。
既に、次作も日本での出版が予定されているとのことでした。一見すると難しいように感じるAIやマシン学習というテーマを、どのようなストーリーで子どもたちに見せてくれるのか今から楽しみです。

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