身近なところでプログラミングの体験教室が開かれていたり、子どもの友だちがプログラミングソフトで遊んでいたり。思いがけず、プログラミングにふれる機会が増えてきています。
もし、「子どもに体験させてみたいけど、楽しめるかわからない」「はじめてみたけど、すぐに飽きちゃう」「好きみたいだけどやっているのは同じことばかり」といった気がかりがあるなら、はじめてのプログラミングをどうサポートすればいいのか、一度考えてみませんか?
今回のテーマはプログラミングの始め方ですが、まず「日記が書けない子どもの話」をさせてください。少し唐突ではありますが、プログラミングと日記がどう結びつくのか、最後まで読み進めていただければ、きっとおわかりいただけるはずです。
さて、日記が書けない子どもの一番の悩みは何かというと、「何を書けばいいのか、わからない」です。親が助け舟のつもりで「あんなことがあったでしょう」「あれ、楽しかったよね?」などと言っても、そこから話題を膨らませるのは難しいことが多いのではないでしょうか。
こんなときに、おすすめなのが、朝起きてから、夜寝るまでの行動を順番に思い出していく方法です。一見無駄なことのようですが、子どもの記憶は時系列で引き出されやすくなります。
「起きて最初に何をしたっけ?」「服を着替えて歯を磨いたよね」「朝ごはんはトーストに目玉焼きで、牛乳が足りなくなったよね」と、子どもに思い出させたり、親が教えたりしながら行動を追って簡単にメモしていきます。事実だけを羅列して味気ないかもしれませんが、重要なステップです。
これは、1日の出来事をリストアップするという作業です。書き出しながらひとつの出来事を詳しく思い出すこともあれば、ひととおり書き出してからメモをながめ、新たな記憶が引き出されることもあります。こうしてリストアップすることで、何を書くかが決まってくるのです。
大人が日記を書くときも、実はこうしたリストアップ→ピックアップ→肉付けという段取りを頭の中で踏んでいます。書こうとする出来事を詳細に思い出し、そこから書くべきことを選んでいるのです。目に見える形でリストアップすることは、書き慣れない子どもにとって、遠回りのようでいて書き方を習得する近道になります。
さて、ここからがようやくプログラミングの話です。はじめてプログラミングを体験する子どもは、何ができるのか、どんな変化が起きるのかがわかっていません。頭の中で想像するだけの経験がないのです。そこで手当たり次第にいろいろな指示を出してみたり、ひとつの動きを気に入って繰り返したりが始まります。
子どもはこうした行動を通して、「こう指示すると、こう反応する」という指示と反応の関係性に気づいていきます。そして、ひとつずつ、ゆっくりと、それらを記憶していくのです。日記で言えば、リストアップをしている段階。整理する前の、はじめの一歩を踏み出したところです。
むしろ、この初期段階の経験をじっくり積み重ねることで、指示のリストがしっかり頭に入っていきます。さらにリストが溜まってくると、次は「これの次にこれを入れたらどうなるかな」という組み合わせの発想が生まれてくるのです。
そして、さまざまな組み合わせを試していくうちに、今度は組み合わせのリストが溜まっていきます。すると「これとこれを組み合わせたらきっと面白くなる」「この指示の間にこの指示を入れたらこんな結果になりそうだ」という予測がたてられるようになっていくのです。
日記とプログラミングには、もうひとつ重要なつながりがあります。それは「言葉にする」ということです。日記は、ひとつの出来事をどんな様子だったのか、どう感じたのか、詳しく書くほど状況が伝わります。プログラミングも、「右に行く」ではなく「どの角度に」「どのくらいの速さで」「どのくらいの距離」動くのか、ひとつひとつの指示を具体的にしなければなりません。
「Scratch(スクラッチ)」をはじめとする子ども向けの初歩的なプログラミングツールは指示(言葉)があらかじめ表示されていて、それを組み合わせていくスタイルが主流です。子どもは手を動かしながら指示の意味やバリエーションを学び、組み合わせを考える経験を積んでいきます。
初歩的なプログラミングソフトでの経験は、より本格的なプログラミングソフトへのチャレンジや学校でのプログラミング教育の入り口です。本格的なプログラミングでは、与える指示を自分で考え、それをプログラミング言語とよばれるコンピュータ用の言葉に置き換えてプログラムを構築します。
指示を明確にして言葉に置き換える力は、丁寧に説明する力や、わかりやすい順番で書いたり話したりする構成力と結びついています。思考やイメージを言語化する力が、より豊かな発想を生み、プログラミングで実現する力を育てていくのです。
日記が書けない、プログラミングソフトの楽しみ方がわからないという状態はとても貴重なスタートラインです。まずはリストアップすることから始めてみましょう。大人には行き当たりばったりの行動や意味のない繰り返しに見えても、子どもが楽しんでいる間はそっと見守ってあげてください。
まだできることが少ししかわからないのに「もっとこうしてみたら?」と親が先を急ぐと、子どものやる気を削いでしまうかもしれません。できることのリストを記憶するには、子ども自身が試すことが重要。その先には、たくさんの「わかった」や「できた」が待っていますから焦らずに。
親にできるのは、子どもが反応を求めてきたそのときに「それ面白いね」と共感することです。タイミングよく声をかけるには、子どもの様子を気にかけている必要があります。反対に、一人で楽しんでいるからと子どもに任せていると、思うようにいかなくてイヤになってしまったり、飽きてしまうことも。
もしも子ども自身が初めから高いハードルを設定しているようなら、今できていることに対して「いいね」と言ってあげてください。うまくできないと自身をなくしているときも、やはり親の出番です。拙い中に面白さやちょっとしたヒントを見つけて、プログラミングの楽しさを伝えていけるといいですね。