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2019.1.11
2019.1.11

短期連載 第1回:『ルビィのぼうけん』作者のリンダ・リウカスさん来日ワークショップ親子編レポート

『ルビィのぼうけん』という絵本をご存知でしょうか。
「どうして?」が口癖の、好奇心いっぱいの女の子ルビィが、ぼうけんをしながらプログラミングに必要な考え方を学んでいく絵本です。作者は、フィンランド出身のプログラマー、リンダ・リウカスさん。イラストレーターでもあり作家であるリンダさんが、自らイラストを描き、子どもたちを楽しいプログラミングの冒険に誘ってくれます。

『ルビィのぼうけん』の作者であるリンダ・リウカスさん。

『ルビィのぼうけん』は世界20か国以上で出版され、授業やワークショップに取り入れられているほか、家庭で親子が楽しめる絵本として親しまれてきました。そして12月21日、『ルビィ』シリーズの最新刊となる第三弾『ルビィのぼうけん インターネットたんけん隊』が発売されました。この発売を記念して、リンダさんが12月に来日し、親子に向けたワークショップを行いました。

『ルビィのぼうけん』シリーズ最新作の『インターネットたんけん隊』。

『こどものミライ』では、この貴重なワークショップの様子のほか、教員向けカンファレンス、リンダさんへの特別インタビューなどを短期連載でご紹介していきます。多くの子ども達に支持されているルビィの魅力の秘密から、プログラミング教育を行っていく上でのヒントがたくさん詰まったリンダさんのお話までを掲載していきますので、お楽しみに!

親子30組がリンダさんのワークショップに参加

12月16日の親子ワークショップは、『こどものミライ』のイベントでもおなじみのD2Cホールで開催され、小学生の子ども達とその保護者30組が参加しました。中には、愛読している『ルビィのぼうけん』を自宅から持参している子どももいるほどで、改めてルビィが日本の子ども達にも親しまれていることを感じました。


最初に『こどものミライ』編集部の田村真理子から、あいさつが行われ、いよいよワークショップがスタートです。今回は、『こんにちは!プログラミング』『コンピューターの国のルビィ』『インターネットたんけん隊』の3冊から、それぞれアクティビティ(練習問題)が出され、親子で実際に挑戦してみました。

練習問題はすべてコンピューターを使わないアンプラグドの方法で、プログラミングの概念から、インターネットの基礎知識、正しいインターネットの使い方までを学んでいきます。アンプラグドは、「パソコンやタブレットがなくても、手軽に取り組める」「低学年でも簡単にプログラミングの概念を学べる」として、最近では小学校の授業でも取り入れられています。

体を使ってプログラミングの概念を学んでみよう

最初に挑戦したのはダンスです。「手をたたく」や「ジャンプ」、「まわる」といった動きを組み合わせて、親子でその場で踊ってみます。

『ルビィのぼうけん』第一弾の『こんにちは、プログラミング』にも紹介されているダンスの練習問題。

実は、これもプログラミングのひとつ。複数の動きを組み合わせることで、ひとつの「プログラム」ができあがるというわけです。また、同じパターンを繰り返すことで、プログラミングにとって重要な「ループ(繰り返し)」の概念を身に着けることができます。

親子でダンスに挑戦。大人も子どもも笑顔で楽しんでいました。

コンピューターにできること・できないことは?

次に挑戦したのが、2冊目の『コンピューターの国のルビィ』に紹介されている「どうやって感じる?(センサー)」という問題です。人間のような感覚を持たないコンピューターにとっては、センサーが感覚の代わりとなります。

「においをかぐ」「見る」「聞く」「味わう」「さわる」といった感覚は、体のどの部分を使うか考えてみます。

技術が発達している現代でも、コンピューターに苦手なものがあります。たとえば、味について「分析はできるけど、どんな味かはまだよくわからないよね」とリンダさんから説明が入り、子ども達はコンピューターが得意なこと、そして苦手なことを知ることができました。


さらに、リンダさんは「実は、コンピューターはどこにでもあります。ぬいぐるみの中にもあるし、歯ブラシにもついている。おそらく、全世界の70%くらいの人がコンピューターと話したことがあるんです。皆さんの家にも、100個単位でコンピューターがありますよ」という話を披露しました。

そして3番目に行ったのは、『インターネットたんけん隊』からの問題、「ネットワークってなんだろう?」と、プライバシーに関する「ほんもの?にせもの?」という2つです。

「ネットワークには様々な種類がある」ということで、まずは、自分の家族のつながりである”ソーシャルネットワーク”について、それぞれ書いてみました。

女の子はかわいらしい絵で、自分の両親や兄弟、祖父母までのつながりを描いていました。

今回、筆者も小学生の息子と一緒に参加し、これらの問題にすべて挑戦してみました。息子はあまり絵を描くことは得意ではないのですが、彼なりに考えて、一生懸命描いていました。

三人家族なので、パパとママと自分の絵。右下が筆者(母)のようです。

母であるわたしの横にパソコンが描かれていたので、「どうして描いたの?」と聞いてみたところ、「いつも、パソコンに向かってお仕事してるでしょ?」とのこと。確かに自宅で原稿を書いていることが多いため、その姿を見て書いたのでしょうが、なんとなくドキッとしました。これは、プログラミングやインターネットの成り立ちとは、一見関係のないことに思えるかもしれませんが、子ども達が普段自分やその周り、世界をどのように見て感じているかを知る、貴重な機会でもあると感じました。

今や、インターネットは、パソコンやスマホの向こう側に繋がっている別の世界のものではなく、わたしたちの生活にシームレスに、密着しています。自分の周りの小さなネットワークだけでなく、空間や距離を超えて、世界中の人とつながることができるようになりました。リンダさんのワークショップを通じて、そのことを改めて実感する機会となりました。

インターネットの情報を見抜く力を持とう

最後の練習問題のテーマは、インターネットを使っているうえで起こりがちな問題「ほんもの?にせもの?」です。あるチャットの会話を例に、間違っているかどうかを判断します。

ルビィとジュリアのチャットを見て、メッセージの内容が本当かどうかを考えます。

これがなかなか難しい。主観的な意見や憶測なども入り混じっており、子ども達にとって、情報の正誤を判断することは難しいことがわかります。
このような曖昧な情報は、インターネットに溢れています。リンダさんは、「事実と意見は、結構注意して読まないとわかりません。インターネットの文章は、注意しないと、意見と事実を取り違えてしまうことが多々あります。そこで、すごく大事なことは、記事を見たときに、“どこで、だれが書いたのか”、事実に基づいたものか、個人の意見なのかを見極めること」だと話しました。


こうして、1時間半におよぶ、親子ワークショップは終了しました。教育ライターとしてそしてプライベートでも一児の母として数多くのワークショップを取材・参加してきましたが、リンダさんのワークショップは独特の方法で、とても興味深いものでした。
子ども達が実際に記述する問題が多かったですが、みんなで挑戦するので、比較的書くことが苦手でも一生懸命取り組み、友達の意見を聞くことができたことで興味もわいたようです。ひとつひとつの問題も決して難しいものではなく、クイズのような感覚で気軽に挑戦できるものでした。


絵本1冊から始まるプログラミング教育

ワークショップが終わったあとも、リンダさんにサインをお願いする子ども達や、いっしょに記念写真を撮影する親子などで、リンダさんの周りはにぎわっていました。

最後まで笑顔を絶やさず、子ども達ひとりひとりへメッセージを届けていたリンダさん。参加した子ども達にとって、『ルビィ』の本とともに、大きな思い出に残りそうです。

子ども達のために、『ルビィのぼうけん』にサインするリンダさんと、訳者の鳥井雪さん(写真左)。

今回ご紹介したワークショップのアクティビティは、『ルビィのぼうけん』シリーズに練習問題として掲載されています。絵本だけで、家庭でも手軽に「プログラミング的思考」やプログラミングの概念を学ぶことができます。「プログラミング教育が始まるらしいけれど、よくわからない……」という保護者の方にも、おすすめの1冊です。

また、教育指導者向けには、授業事例や教材データなどがセットになった『ルビィのぼうけん ワークショップ・スターターキット』も販売されています。

翔泳社から発売されている『ルビィのぼうけん』第一弾と第二弾。

次回は、午後に開催された教育関係者向けの講演会の模様をお届けします。実際にプログラミング教育を実践している小学校からの実践例、パネルディスカッションも行われ、盛りだくさんの内容となっていますので、引き続きチェックしてみてくださいね。

相川いずみ