株式会社船井総研ホールディングス(東証プライム)と日本アジア投資株式会社(JAIC)が、合弁でキャピタル会社「株式会社船井総研JAICキャピタル」を設立することで合意したと、2026年8月7日に発表した。設立は2026年9月を予定する。第1号ファンドは、モビリティ業界を投資対象とする「FJ-モビリティ事業承継ファンド投資事業有限責任組合(仮称)」で、出資約束金は20〜30億円を目標としている(最終額は募集の状況により変動する)。
金融のニュースとしては、後継者のいない中堅・中小企業に資本を入れ、事業承継をハンズオンで支援する、という話である。ただ、対象として挙げられた業種の並びを見ていて、ひとつ気づくことがあった。自動車販売、整備・車検、鈑金・塗装、保険代理店、ガソリンスタンド。ここに並んでいるのは全部、こどもが通学路で毎日見ている建物だ。
「こどもの未来」では、この発表を産業再編のニュースとしてではなく、いまの小学生が二十歳になったとき、地元にどんな仕事が残っているかという問題として読んでみたい。
国土交通省が整備士の確保・育成についてまとめた資料に、いくつかの数字がある。並べ方によって、見えるものが変わる。
まず、自動車の整備要員の数そのものは、平成23年度の402,221人から令和5年度の399,770人へと、ほとんど減っていない。この一行だけを読めば、危機的な状況には見えない。
ところが同じ時期に、自動車整備要員の有効求人倍率は0.59倍から4.99倍になった。求職者ひとりに対して、求人がおよそ5件ある状態である。働いている人数はほぼ変わらないのに、募集と応募のつり合いだけが、まったく別の世界になっている。
この二つを重ねると、「人が減った」問題ではないことがわかる。細っているのは、入ってくる側だ。自動車整備系の学校への入学者数は、平成15年度の12,394人から令和6年度の7,068人へ、二十年あまりで4割以上減った。
ただし、この数字にはもう一段の続きがある。入学者数は令和2年度の6,369人を底に近年は持ち直しており、令和6年度の7,068人はその回復の途上にある数字でもある。入口が完全に閉じたわけではない。それでも、平成15年度の水準には遠く、抜けていく人数に追いついてはいない。整備要員の平均年齢が、平成15年度の39.7歳から令和3年度には47.2歳へと7歳以上上がっているのは、その差の表れである。
つまり現場は、まだ回っている。回しているのは、二十年前から働き続けている人たちだ。数字が示しているのは今日の不足ではなく、その人たちが引退したときに交代要員が足りない、という数年先の予定である。
ここに、この問題のいちばん厄介な性質がある。時間の進み方が、行きと帰りで違うのだ。
会社が閉じるのは速い。経営者が体調を崩す、後継者が見つからない、次の設備投資を任せられる相手がいない。廃業の多くは、経営に失敗したから起きるのではなく、最後まで責任を持とうとした結果として選ばれる。それでも、判断から店じまいまでは数年で完結する。
対して、人が育つのは遅い。自動車整備士の資格は、実務経験を積みながら等級を上げていくのが基本で、実務経験だけで進む場合は3級に合格してから2年で2級、2級から3年で1級の受験資格に届く。専門学校などの養成施設を経れば期間は短縮されるが、それでも現場でひとり立ちするまでには年単位の時間がかかる。技能そのものも、学校を出たあとに誰かの隣で何年か働いて身につく部分が大きい。
減るのは数年、育つのに十年。この非対称性があるかぎり、「足りなくなってから対策する」という順番は、原理的に間に合わない。そして、その間に合わなかった時間を実際に引き受けるのは、いま判断している世代ではなく、いま小学校に通っている世代である。
もうひとつ、直感に反する変化がある。
2020年4月、自動車の整備制度は「分解整備」から「特定整備」へと範囲が広がった。自動ブレーキやレーンキープに使うカメラ・ミリ波レーダーの脱着や調整——エーミングと呼ばれる作業——が、認証を受けた工場でなければ行えない領域に入ったからだ。この電子制御装置整備の認証を取るには、1級自動車整備士(二輪を除く)か、2級整備士・車体整備士・電気装置整備士などが講習を修了して整備主任者になる必要がある。制度開始から4年間の経過措置は、2024年3月末で終わっている。
電動化が進むと、エンジンまわりの部品が減り、整備の総量は減るとも言われる。だが同時に、一台を正しく直すために要求される知識と設備の水準は、確実に上がった。仕事の量と、仕事の難易度が、反対の方向に動いている。
この水準の引き上げを、いちばん現場で引き受けてきたのはベテランの整備士たちである。制度が変わるたびに講習を受け、覚えた手順を上書きし、新しい機器の使い方を習い直す。二十年前に身につけた技能のままでいられた人はいない。いまの現場が回っているのは、その学び直しが積み重ねられてきたからだ。
これは、こどもの進路という視点から見ると、単純な斜陽産業の話ではない。「クルマが好き」から始まる道が、機械いじりだけでなく、電気・ソフトウェア・データを扱う仕事につながり得るということでもあるからだ。理科が好きな子、プログラミングに触れている子にとって、地元の整備工場が選択肢の外にある必要はない。
ただし、それは教えられる人と設備が近くに残っていれば、の話である。
こどもが将来を思い描くとき、まず効くのは、見たことがあるかどうかだ。統計や職業紹介の冊子より、通学路の記憶のほうが強い。
その「見える仕事」の数には、地域差がある。資源エネルギー庁の集計によれば、給油所の数はピークだった平成6年度末の約6万カ所から、令和6年度末には27,009カ所へと半分以下になった。給油所が3カ所以下しかない「SS過疎地」の市町村は381にのぼり、平成26年度末からの10年間で約100増えている。
生活の不便として語られることの多い数字だが、職業選択の側から見ると別の意味を持つ。まちから店が消えるということは、こどもがその仕事を見ないまま大人になるということでもある。都市のこどもと、そうでないこどもとで、進路を考え始める時点の選択肢の数がすでに違っている。
帝国データバンクの調査では、2025年の全国の後継者不在率は50.1%だった。調査開始以来もっとも低い水準で、改善は続いている。それでも、なお2社に1社である。
今回設立が合意された船井総研JAICキャピタルは、船井総研グループの現場密着型の業績向上・DX支援ノウハウと、JAICのファンドの組成・管理およびガバナンスに関する知見を集約し、後継者不在に悩む中堅・中小企業の事業承継をハンズオンで支援する体制をつくるとしている。第1号がモビリティ業界になったのは、船井総研グループが約30年にわたり支援実績を持つ分野だからだという。新会社の代表取締役社長には船井総合研究所の渡邊功一氏、代表取締役副社長にはJAICの守能雅之氏が就任する予定だ。
2026年8月7日の発表時点では、合意の公表段階であり、ファンドの組成もこれからとされている。成否をこの時点で評価することはできないし、するべきでもない。
そのうえで、こどもの未来という視点から書き留めておきたい論点がひとつある。これは今回の取り組みに限った話ではなく、事業承継一般についての論点だが、会社が存続することと、若手を育てる場所が残ることは、必ずしも同じではない。承継が成立しても、育成に人と時間を割く余力がなければ、技能の受け渡しはそこで途切れる。逆に、資本が入ることで一社では負えなかった設備投資や研修に手が届く、という可能性もある。
投資事業有限責任組合は、その存続期間を組合契約書に定めることが法律上求められており、資本には回収の時間軸がある(今回のファンドの存続期間は公表されていない)。一方で、人が育つ時間は十年単位だ。この二つの時計をどう噛み合わせるかは、事業承継ファンド全般に共通する問いであり、そして、産業の再編にとどまるのか次の世代にまで届くのかを分ける点でもある。批判として言うのではない。これから見ていくべき点はそこだ、という意味である。
こどもに産業構造の説明をしても、たぶん響かない。けれど、通学路の整備工場やガソリンスタンドは、こどもがすでに知っている場所だ。職業体験や自由研究の題材として、これほど手近で、これほどいま変化している対象はそう多くない。
見学に行ったら、ひとつだけ聞いてみるといい。
「ここでいちばん若い人は、何歳ですか」
その答えは、たいていの統計より正確に、そのまちの十年後を教えてくれる。
ただし、これは工場を試すための質問ではない。返ってきた年齢が五十代でも六十代でも、それは目の前の人が、その歳まで誰かのクルマを預かり続けてきたということでもある。若い人がいないことを数える前に、まだいる人がいることを見たほうがいい。次の世代に渡すものがあるとすれば、それは統計ではなく、その人が持っている手のほうだ。
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