コラム
COLUMN
COLUMN
コラム
 | 
2025.11.4
2025.11.4

ワタミ、千葉県と協力し「低未利用魚」の商品化へ 各地で広がる取り組み

日本では年間推定100万トンの魚が「低未利用魚」として十分に活かされていない。2025年11月、ワタミが千葉県と協力し、環境保全と食品活用を両立させる商品の販売を始めた。福岡のベンナーズは月間1.5万人に魚を届け、大分のウニノミクスは世界初の認証を得た。水産業で新しい価値を生み出そうとする取り組みを取材した。


「低未利用魚」の活用に取り組む動き

これまで市場に届きにくかった魚

日本の漁獲量は、1984年の1,282万トンから2023年には372万トンへと減少している。その中で、水揚げされる魚の30〜40%にあたる推定100万トンが「低未利用魚」として、市場に十分に届いていない。

低未利用魚とは、サイズが不揃いだったり、漁獲量が少なかったり、一般的な認知度が低いなどの理由で、これまでの流通の仕組みでは扱いにくかった魚のことだ。

この魚を活かそうという取り組みが、各地で始まっている。大手企業からスタートアップまで、それぞれの方法で取り組んでいる。


事例1:ワタミの取り組み 千葉県勝浦市との協力

環境保全と食の取り組み

2025年11月4日、ワタミは千葉県勝浦市産のブダイを使った冷凍惣菜「勝浦のブダイの煮つけ」の販売を開始した。新勝浦市漁業協同組合、株式会社西川、千葉県と協力した取り組みだ。

地域の環境課題

千葉県の沿岸では、海藻が生い茂る「藻場」が減少する「磯焼け」という現象が起きている。ブダイなど海藻を食べる魚の増加が一因として指摘されている。海水温の上昇などの環境変化により、これらの魚が増えている。

漁業者の方々は刺網などでブダイを駆除してきたが、一般的な認知度が低く市場に流通しにくいため、活用方法を見出すことが難しかった。

既存の流通網を活用

ワタミは、既に全国に持っている流通の仕組みを使う方法を取った。管理栄養士が監修する冷凍惣菜宅配サービス「ワタミの宅食ダイレクト」を通じて、全国の消費者に届けている。

「いつでも三菜」シリーズの一つとして、定期購入と都度購入の両方に対応している。

今後の展開

大手外食企業の参入により、低未利用魚の活用に新しい動きが生まれた。今後、藻場への効果や事業の継続性について、検証と情報開示が期待される。


事例2:ベンナーズの「フィシュル!」 港から食卓へ

サブスクリプション型の仕組み

福岡を拠点とするベンナーズが2021年3月に始めた「フィシュル!」は、低未利用魚を活用したサブスクリプションサービスだ。現在、月間約1.5万人の方々が利用している。

加工と配送の流れ

水揚げされた魚を加工する。鱗を取り、3枚におろし、それぞれの魚の特性に合わせた味付けを施す。着色料や保存料は使わず、冷凍パックにして定期的に家庭に届けている。

同社はECサイトでの販売だけでなく、実店舗も運営している。海鮮丼専門店「玄海丼」をセントラルキッチン方式で展開し、実際に食べた方々の反応を商品開発に活かしている。店舗によっては月商1,200万円を達成している。

今後の計画

2025年度は前年比で売上2倍を目指している。2026年度にはフランチャイズ展開や海外EC事業も視野に入れており、2027年の上場を目標に、国内3店舗から東南アジアへの出店も検討している。


事例3:ウニノミクスの循環型の取り組み 環境価値の認証

駆除したウニを育てて販売

オランダ発のウニノミクスは、磯焼けの一因とされる増えすぎたウニを買い取り、育てて販売し、利益を藻場の回復活動に還元する仕組みを作っている。

駆除されたウニは、海藻が少なく栄養不足で身が入っていない。そのままでは商品にならないため、同社はノルウェー水産研究所の技術をもとに専用の飼料を開発した。昆布の端材を主原料とし、約2カ月の畜養で食用に適した品質に改善する技術を確立している。

世界初のJブルークレジット認証

2019年3月、大分県国東市に世界初のウニ蓄養会社「大分うにファーム」を設立した。地元の漁業協同組合、ENEOSホールディングス、研究者の方々と協力し、ウニの除去による藻場の回復とCO2吸収量を測定した。

その結果、世界で初めてJブルークレジットの認証を取得した。Jブルークレジットは、海の生態系が吸収する炭素「ブルーカーボン」を認証する制度だ。この取り組みは、「国連海洋科学の10年」の公式推薦プロジェクトにも選ばれている。

2024年7月には日本郵船との資本業務提携も発表している。


背景にあること

漁獲量の減少

日本の漁獲量は長期的に減少している。1990年代には1,000万トンを超えていたが、2023年には372万トンとなった。約100万トンの魚が十分に活用されていないことへの関心が高まっている。

技術の組み合わせ

低未利用魚の活用では、既存の技術を組み合わせる方法が取られている。

流通と加工

  • 冷凍や真空パックで鮮度を保つ技術
  • セントラルキッチンでの加工
  • 小さな単位でも対応できる物流

販売の方法

  • ECサイトやサブスクリプション
  • 産地と消費者をつなぐプラットフォーム
  • 大手企業の全国流通網

これらの技術を組み合わせることで、「少量で種類が多く、いつ獲れるか分からない」という低未利用魚の特性にも対応している。

社会的な関心

2025年の大阪・関西万博では「未利用魚の新たな活用大作戦!」というプロジェクトが登録されている。三菱総合研究所も外食での実証実験に取り組んでいる。

環境や持続可能性への関心が高まる中で、ベンナーズの資金調達やウニノミクスの大企業との提携も実現している。

残されている課題

解決していく必要がある点もある。

供給の安定

  • 魚の種類や量が天候や季節で大きく変わる
  • 小規模な漁業協同組合では加工設備が限られている
  • 漁業者の高齢化(2023年の就業者は約12万人で長期的に減少傾向、高齢化率は約4割)

認知と理解

  • 一般の消費者には馴染みが薄い魚種も多い
  • 調理方法の情報が少ない
  • 市場に出回らない理由への疑問

効果の測定

  • 環境への影響を数値で示す方法の確立
  • ワタミのブダイの取り組みでも、藻場への効果は今後の測定が期待される
  • 長期的な持続可能性を示すデータの蓄積

こうした課題への取り組みも、各地で続けられている。


今後の動き

短期的な展開

既に実績のある取り組みが、他の地域や企業にも広がっていく可能性がある。地方自治体との協力も増えている。例えば長崎県五島市では、5年間で5ヘクタールの藻場回復を目標に設定している。離島漁業再生支援交付金など、既存の支援制度を活用した取り組みが各地で始まっている。

中期的な展開

ブルーカーボンの市場が成熟すれば、ウニノミクスのように環境への貢献を経済価値に変える仕組みが増える可能性がある。ただし、現時点でJブルークレジットを取得しているのはウニノミクスだけで、効果の測定方法を確立することが課題になっている。

「未利用魚」という言葉も、今後変わっていく可能性がある。「サステナブルフィッシュ」や「ローカルシーフード」といった表現が使われるようになるかもしれない。

さらに先のこと

水産業全体がどう変わるかは、まだ分からない。現在の「市場で人気のある魚を獲る」やり方から、「獲れた魚に価値を見出す」やり方への転換は、農業で規格外の野菜を活用する動きと似ている。

ただし、漁業は「育てる」のではなく「獲る」産業なので、資源を守りながら低未利用魚を活用していくバランスが重要になる。


世界との関わり

世界的な課題

FAOの調査では、世界全体で年間約910万トンの魚が廃棄されているという。日本の推定100万トンは、世界の約1割に相当する。

世界の人口は増え続け、水産物への需要も高まっている。日本で培われた方法は、同じような課題を抱える国々にも参考になるかもしれない。ベンナーズが東南アジアへの出店を検討しているのも、そうした視点からだろう。

既存の技術の組み合わせ

低未利用魚の活用で使われているのは、特別な新技術ではない。冷凍技術、EC、サブスク、セントラルキッチンなど、すでにある技術を水産業に適用している。

現場で工夫を重ね、新しいビジネスモデルを組み合わせる。成熟した産業でも、やり方次第で新しい価値を生み出せることを、これらの取り組みは示している。

産業の継承

漁業で働く人は長期的に減少傾向にあり、2023年には約12万人となっている。高齢化も進んでおり、65歳以上が約4割を占める。

低未利用魚の活用で漁業者の収入が増えれば、若い人が参入しやすくなるかもしれない。ベンナーズの創業者は、祖父が水産加工業、父が魚の卸売業をしていた経験から、新しい方法で業界に関わっている。

家業をそのまま継ぐのではなく、新しい技術や仕組みで産業に関わる。低未利用魚の活用は、そうした形で産業を次世代につなぐ一つの方法になっているようだ。


まとめ

低未利用魚の活用は、魚の廃棄を減らすだけでなく、水産資源の持続的な利用、漁業者の収入向上、消費者への新しい選択肢の提供、環境保全など、さまざまな側面を持っている。

2025年のワタミの参入は、この動きが大手企業にも広がっていることを示している。ベンナーズの上場計画、ウニノミクスのJブルークレジット認証など、それぞれが異なる方法で取り組んでいる。

環境への効果をどう測るか、安定的に供給できるか、もっと多くの人に知ってもらうにはどうするかなど、解決していく課題もある。

この動きがどこまで広がり、水産業にどんな変化をもたらすのか。今後の展開を見守りたい。