2017年12月17日、Googleのトップページに「キッズコーディング50周年」を祝うプログラミングゲームが掲載されました。マサチューセッツ州工科大学のMITメディアラボが開発したScratchとGoogle Blocklyという子供向けプログラミングをベースにGoogleのエンジニアたちが作成したものです。
50年前、というと、1967年。スティーブジョブズがApple Iを販売したのが1976年、ビル・ゲイツがWindows1.0を発表したのが1985年なので、それよりも10年も前からキッズコーディングの歴史は始まっていたのです。
意外と長い、キッズプログラミングの歴史。そして、ただ長いだけではなく、コンピュータやプログラミングの歴史を作ってきた先人たちが、その情熱をかけて研究し、作り上げてきた大変深いものであるということをたくさんの人に知っていただきたいと思います。
2017年3月に日本政府が成長戦略のひとつとして学習指導要領の改訂を発表しました。その中でプログラミング教育が必修になるということで、昨年は習い事ランキングの上位に上がり、プログラミング教室が続々と開業するなど、まるでプログラミング教育ブームが到来したようでした。
日本では急に騒がれだしたように感じる方も多く、そのため、反対意見や課題が指摘されることも多い「プログラミング教育」。しかしながら、海外ではすでに小中学校で必修化が始まっている国は多く、子供たちがプログラミングを学ぶことは世界では普通のことになりつつあります。
そして、子供たちが今、学校でプログラミングを学ぶことができるのは、50年という長い期間の中で、子供の発達とプログラミングについて研究し、開発を続けてきた人たちがいるからです。
どのような人物がどのような思いで開発をしてきたのでしょうか?その誕生から現在に至るまでを一緒にみていきたいと思います。少し長くなるので、前後編の2回に分けてお届けします。
1960年台、パソコンの登場するもっと前に、シーモア・パパートとMITの研究者がLOGOというプログラミング言語を開発しました。世界ではじめて子供のためにデザインされた教育用プログラミング言語です。小さなカメを動かして図形を描くため、タートルグラフィックスとも呼ばれています。50年も前に開発されましたが、現在も様々な言語でタートルグラフィックスが発表され、子供用の教育プログラミングツールとして親しまれています。
Turtles1.05(タートルズ)現在のタートルグラフィックス
まだパソコンの普及していない時代に、パパートたちは、将来、すべての子供たちがコンピュータを使って学ぶ時代が来ると予測をしました。そして、プログラミングを学ぶことは、コンピュータ社会で子供たちが自信を持ってたくましく成長していくための手段であると考えたのです。
シーモア・パパートはMITメディアラボの創設メンバーであり、偉大な数学者としても知られる傍ら、LOGO言語や100ドルPCの開発など、児童教育へのテクノロジー貢献にも生涯を通して尽力しました。2016年に88歳で亡くなっています。
その後、1990年台に入り、子供向けのビジュアルプログラミング言語「Squeak Etoys」が発表されます。開発をしたのは、パーソナルコンピュータ構想「Dynabook」を提唱し、パーソナルコンピュータの父と呼ばれるアラン・ケイです。アラン・ケイはオブジェクト指向と呼ばれるプログラミング言語の提唱者としても知られる伝説的な技術者です。「未来を予測する最善の方法は未来を発明することだ」という彼の言葉でもよく知られています。シーモア・パパートと親交が深く、後年はパパートと共に児童教育の分野へ力を注いでいます。
Squeak Etoysは、私自身がプログラミングの勉強を始めた時期に日本でも少し話題になりました。当時、難解なC言語が主流のシステム業界で四苦八苦していた私にとって、オブジェクト指向をビジュアル化して子供でも扱えるようにしたSqueak Etoysは大変な衝撃でした。
「オブジェクト指向」とは、それまでコンピュータに理解できるように書いていたコードを、現実の”もの”を作るように、「部品」をつくり、それを組み立てて大きなシステムを作り上げていくという考え方です。この考え方を取り入れることで、ブロックや積み木を組み立てるようにプログラミングを分かりやすく理解することができるようになりました。
C言語のイメージ
コンピュータが処理する順番に命令を記述していく
Squeak EToys
ビジュアル化された部品やプログラムコード、それらを組み合わせていくことでゲームやアプリを作る。下記画像は当時のSqeak Etoysではなく現在のバージョン。カラフルになり部品が増えましたが基本は変わっていません。
1990年台後半になるとMITメディアラボやレゴブロックのLEGO社などが協力をして、ブロックとコンピュータを組み合わせてプログラミングを学ぶことのできる「LEGOマインドストーム」を開発します。子供向けのロボットプログラミング教材の誕生です。
LEGOマインドストームは教育機関や研究機関を中心に利用が拡大し、現在でも最新のバージョン「教育用レゴマインドストームEV3.0」が、多くの教育機関で利用されています。
2006年、キッズプログラミングの研究と発展を牽引し続けてきたMITメディアラボで、ビジュアルプログラミング言語「Scratch」が誕生しました。
開発のリーダーとなったのは、ミッチェル・レズニック教授です。シーモア・パパートとアラン・ケイの両氏に師事し、自身で立ち上げたLifelong Kindergartenでは多世代のテクノロジー教育に関する研究を続けています。
Scratchは、LOGO言語とSqueak Etoysの影響を大きく受けていますが、さらに子供が熱中しやすいゲームやアプリが簡単に作れるように様々な工夫が加えられました。
Scratchはコンピュータ教育の広まりと共に爆発的に拡大し、現在では世界中で2500万人以上のアカウント登録者がいます。
Scratchの拡大に大きく寄与したのが、2013年5月に公開されたScratch2.0。すべての機能を、ダウンロードやインストールをする手間なく、オンライン上でサイトへアクセスするだけで利用できるようになりました。
また、SNSの機能が充実していることも特徴のひとつです。プログラムをシェアしたり、世界中の「スクラッチャー」と呼ばれるScratch利用者が作った作品で遊んだり、作品のリメイクをすることが出来るようになりました。また、Scratch内で独自のコミュニティが形成される、世界中から作品への称賛のコメントが寄せられる、など、子供たちにとってScratchは単なるプログラミング教材の枠を超えたコミュニケーションツールとなったのです。
Scratchは、「すべての人にプログラミングを」という理念のもと、現在、40以上の言葉に翻訳され、150以上の国で利用されています。
Scratch
2018年3月現在、プレビュー版が公開されている新しいバージョンのScratch3.0
よりシンプルになり、子供たちの親しみやすさ、使いやすさが追及されている。
Scratchの開発リーダーであるレズニック教授は、2012年に公開されたプレゼンテーション動画の中で、プログラミングを学ぶことを読み書きに例えて以下のように説明しています。
「読み書きを覚えることで、子供たちは、本を読み、文章を書くことで多くのことを学びます。プログラムコードを読み書きできるということは、プログラミングを通して、コンピュータをはじめとする、多くのことを学ぶことができる可能性を身につけるということです。」
さて、世界中で利用されているScratchではありますが、日本のアカウント登録者数はその中でわずか1%です。(2018年3月7日調べ)AIBOやASIMOなど、ロボット大国として知られる日本ですが、果たしてこれからもその地位を維持していけるのでしょうか。
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前編ではScratchの登場までの歴史を振り返りました。後編は、最近のキッズプログラミング事情と、キッズプログラミングのこれからをお届けしたいと思います。次回もお楽しみに!!
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