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2018.3.20
2018.3.20

ただのブームで終わらせないために。知っておきたい「キッズプログラミング」の歴史(後編)

「キッズプログラミング」の歴史を振り返る『知っておきたい「キッズプログラミング」の歴史』の後編をお届けします。前編では、子ども向けプログラミング言語の誕生から、Scratchの登場までを振り返りました。後編の今回は、最近注目されているプログラミングトイなども登場します。そして、これからのキッズプログラミングがどうなっていくのか、みなさんと一緒に考えていきたいと思います。

2.キッズプログラミングの歴史(つづき)

STEM教育時代の幕開け

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パソコンやスマホが普及し、コンピュータやテクノロジーがより身近になる中で、新しい教育基準としての地位を獲得したのが「STEM教育」です。

STEMとは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Math(数学)などの理工系の技術のことを指し、そこに重点を置いた教育がSTEM教育と呼ばれています。プログラミング教育は、STEMを学ぶためのツールとして注目を集め、近年では、子供向けの様々なプログラミング教材やおもちゃが次々と発表されるようになりました。

その中から、特に最近のSTEM教育のトレンドを築いてきたと思われるプログラミング教材をいくつかご紹介したいと思います。

Google Blockly
「ただのブームで終わらせないために キッズプログラミングの歴史(前編)」の冒頭に紹介した、Googleのイラストロゴ「Doodle」のプログラミングアプリがGoogle Blocklyをベースに作成されています。ブロックプログラミングのインターフェースにGoogleならではのマップ機能などを活用したゲームを作って遊ぶことができます。

Hour of Codeなど、Google Blocklyをベースにした、プログラミング教材が多数開発されていて、プログラミング教材の開発スピードを上げる一翼も担っています。

Hour of Code
誰でもプログラミング体験ができる無料のオンライン学習サイト「Hour of Code」
コンテンツの多くはGoogle Blocklyをベースに作られている

(出典:Code.orgホームページ Hour of Code https://code.org/learn)

マインクラフト
アメリカのゲーム制作会社Mojangが開発した世界中で1億本を販売するゲームソフトです。日本でも小学生を中心に人気があり、通称「マイクラ」と呼ばれ、任天堂やプレイステーションなどのソフトとしても販売されています。

Minecraft(Mine(掘る)Craft(作る))という名前の通り、ブロックを掘ったり組み立てたりすることで様々な建築や造形を行います。拡張機能としてプログラミングを使った機能がリリースされていることから、プログラミング教材としても注目を集めるようになりました。

現在は、Microsoft社がPC版を販売しており、教育機関向けのEducation版も提供されています。
マインクラフト公式サイト
https://minecraft.net/ja-jp/

レゴ WeDo2.0
ロボットプログラミング教材の元祖であるレゴマインドストームですが、長い間、教育機関や研究機関向けにのみ販売をされてきました。また、価格も数万円~数十万円以上もするため気軽に利用するのが難しい教材でもあります。2016年に販売開始されたレゴWeDoは一般家庭でも購入ができ、マインドストームと比較すると手ごろな価格で入手できることから人気を集めました。
http://www.legoedu.jp/wedo2/

Sphero(スフィロ)ロボティクスボール
2010年に発売開始された球体型のロボットボールSphero(スフィロ)。ジャイロ機構を使ったスピード感のあふれる動きや、シンプルで使いやすいプログラミングアプリは教材としても注目され、全世界で2000以上の学校に導入されるなどの実績があります。

他の教材と比較してエンターテインメントを追及した商品が多いのが特徴です。様々なキャラクターとコラボするなど、おもちゃとしての人気も高く、子供から大人までファンの多い製品です。

Sphero SPRK+

スターウォーズとのコラボ商品

アーテックロボ
日本の教材メーカーとして初めてプログラミング教材に取り組んだのが、教材メーカーとして50年の歴史を持つ、株式会社アーテックでした。2013年にアーテックロボを販売開始し、中学校の技術科で採用されるなど、日本のテクノロジー教育に多大な貢献をしています。
ブロックを自由に組み立てて、Scratchベースのビジュアルプログラミング言語でプログラミングをしてロボットをコントロールします。


3.キッズプログラミングのこれから

2013年、コンピュータサイエンスウィークのイベント会場で、アメリカのバラク・オバマ大統領がプログラミング教育の大切さについて唱える演説を行いました。

「新しいゲームを買うだけではなく、つくってみよう!」

アメリカだけではなく、イギリス、エストニア、フィンランド、韓国、など、各国で小中学生へのプログラミング教育の必修化が進められています。子供たちの教育に力を入れることは国を強化するための国策と考える国が増えてきています。

日本では、コンピュータ教育が全般的に遅れていることが指摘されていますが、危機感を持っている人は少ないように感じます。国だけではなく企業や個人も含めて、これからの世界を支える子供たちを育てていけるような教育について真剣に考えていく必要があるのかもしれません。

多くの人に「キッズプログラミングのこれから」について考えていただくために、今後、キッズプログラミングを発展させる重点ポイントになると、私が個人的に考えている3つのキーワードについて紹介し、キッズプログラミングの歴史の最終章とさせていただきたいと思います。

キーワード1.低価格で高機能なコンピュータ

「世界中の子供たちがひとり1台コンピュータを持つようになったら何が起きるだろう?」

キッズプログラミングの生みの親であるシーモア・パパートが取り組んできた「100ドルPC」、OneLaptopPerChildというプロジェクトとして現在でも発展途上国を中心に活動を続けています。そして、また、同じ意思を持つ企業や団体によって、高機能かつ安価に提供されるコンピュータが世界中に広がりつつあります。

micro:bitは英国国営放送のBBCや企業の協力によって開発されました。イギリスで小学5年生のすべての子供たちに配布され、プログラミング教材として利用されています。RaspberryPiやArduinoに代表されるような低価格のマイクロコンピュータも多く開発されています。500円~5,000円程度で販売されており、パソコンの代用として利用できるもの、モーターやセンサーを接続してプログラミングをするなど電子工作にも利用できます。

RaspberryPi3 ModelB
税抜4,000円 インターネットにもつながりパソコンとして利用できる

キーワード2.パーソナルファブリケーション

MITメディアラボのN・ガーシェンフェルドらが提唱する、コンピュータやネットワークを取り入れた個人によるものづくりをさします。コンピュータによってさまざまなツールを自動化しつつ、そのノウハウをインターネットで広く共有することで、個人がより容易に、高度な創作に取り組むことができるという発想にもとづいています。

たとえば、3Dプリンターでの造形、安価なコンピュータ、Scratchなどのオープンな開発環境を組み合わせることで、個人でも比較的容易にプログラミング可能なロボット開発を行えるようになりました。今やテクノロジーは大手メーカーだけのものではなくなっています。

子供たちが遊びの延長で高度な技術を持つロボットを作り上げることが現実になる日は近いのかもしれません。

キーワード3.AIプログラミング

AIスピーカーが人気になり、シンギュラリティ(AIの知能が人間を超える)や、AIに仕事が奪われるのでは?という議論が展開されるなど、最近は、AIが非常に注目を集めています。

AIは「かしこい」、自分で「考えている」といわれますが、そこにはAIに関連する技術が利用されているということを忘れてはいけません。「ディープラーニング」「画像・音声認識」「感情表現」など、AIを技術的な側面からみるために、AIのプログラミングについて知ることは今後とても重要な教育になると考えられます。

また、「人間らしい」知能について考えることは、「人間とは何か」を考えることにつながり、より哲学的な学習テーマにもなります。

COZMO
タカラトミーから発売されているAIロボット
子供から大人までAIプログラミングを体験できる数少ないロボット教材

©2017 Anki,Inc. All rights reserved.

COZMOのプログラミングツール、コードラボ。「幸せ」をどう表現する?

©2017 Anki,Inc. All rights reserved.

さいごに

本記事では、キッズプログラミングの歴史が、つい最近始まったものではなく、コンピュータの歴史と共に発展し、天才と呼ばれる人物たちがその情熱と時間をかけて作り上げてきたのだ、ということをお伝えしました。

そして現在、その意思を継ぐ形で多くの技術者、教育者たちが、プログラミング教育や教材の開発に取り組み始めています。

シーモア・パパートが予測した、すべての子供たちがコンピュータを使って学ぶ時代はすぐ目の前に迫っています。これからの子供たちの教育環境がキッズプログラミングやテクノロジーによってよりよく発展することを願っています。

丸山絢子