レゴでプログラミングを学んでいる子ども達にとって、ひとつの大きな目標となるのが、世界的なロボット大会である「WRO(World Robot Olynpiad)」だ。その入門ともいえる6歳から10歳までを対象にした「WRO Japan 2018 WeDo Challenge」が、今年初開催となった。この記事では、大会までの練習から当日の大会の模様までを、参加者視点でご紹介していく。今後、WROに挑戦してみたい方々の参考になれば幸いだ。
「WRO Japan 2018 WeDo Challenge」は、これまでのWROと異なり、「教育版レゴ マインドストーム EV3」ではなく「レゴ WeDo 2.0」を用い、6歳から10歳までを対象としているのが特徴だ。参加者は2~3人でチームを組み、ロボットを組み立ててプログラミングし、指定された問題をいかに解決するかを競う大会となっている。
WROというとプログラミング教室からのエントリーが多いイメージがあるが、実は個人での参加も可能だ。参加資格は「2018年に6歳から10歳であること」という年齢制限のみ(チーム内で1人でも資格があれば、6歳以下の参加も可能)。また、大会で使用するロボットのモーター、ハブ、センサーは「レゴ WeDo 2.0」(以下WeDo)基本セットから使うため、個人で参加するには、WeDoを持っていることが必須となる。WeDoは、マインドストームよりやや低年齢向けのロボットプログラミング教材で、プログラミングだけでなく、ものの仕組みや自然の摂理といった「サイエンス」の概念を学ぶことができる。
今回は、筆者の10歳の息子と、その友達であるレゴ好きの8歳男子の2名でチームを組み、「WRO Japan 2018 WeDo Challenge」に個人参加でエントリーを行うことにした。息子は、今年7月に開催されたWROの東京大会予選会にプログラミング教室経由で参加したこともあり、「なんとかなるだろう」と、非常に楽観的に考えて勢いに任せてエントリーしてみた。しかし、それがかなり甘い考えだったことを、後々思い知ることになる……。
エントリーしたのは、締め切りギリギリの最終日。友達とチームは組んだものの、学校も学年も住んでいる場所も異なるため、大会までの3週間で、一緒に練習できる機会はたった2回。それ以外の日は、各自自宅でロボットを組み立てて練習することになった。
今回の課題は、決められたフィールド内に設置された2種類のフルーツ(ボール)を、指定の場所に運ぶというもの。「フルーツが台から離れると10点」「ロボットがフルーツをジュース工場に移動させると10点」などの得点表が用意されており、最高点は120点。当初は簡単に思えた課題だったが、実際に練習を始めてみると、かなり難しいことに気付いた。
まずはチームで練習する前に、それぞれで大会用ロボットを作成するところからスタート。課題では、フィールドの4角に置かれた4つのフルーツを、フィールド内にある「ジュース工場」や「お店」に運ぶ必要があるのだが、それぞれ高さの違う台に載せられたフルーツをいかに移動させるかがカギとなってくる。制限時間は2分間のため、ロボットの移動スピードも考えなくてはならない。
WeDoには専用アプリが用意されており、地球上での困った問題や様々なテーマについて、ロボットを組み立ててプログラミングをしながら、解決方法を考えたり研究したりできる。サンプルを参考に、今回の課題にあったロボットはどんなものか、まずは親子で色々と考えてみた。
「これ、小学生には難しすぎるのでは……」
早くも行き詰ったコーチ兼母をよそ眼に、息子は黙々とレゴを組み立て、クルマ型ロボットを作っていく。
チーム練習ではそれぞれで作ったロボットをフィールドに置き、実際にフルーツが取れるかどうかを確認。なかなか思うようにいかず、何度もロボットを作り、組み替えていた。しかし、そこは小学生男子2人。つい、脱線して遊ぶ方向にいってしまいがちだ。
WROはロボットの製作はもちろんだが、いかに効率的に確実にミッションをこなすかというプログラミングも重要なカギとなる。しかし、練習ではロボットを作ることに時間がかかり、プログラミングについては、簡単な前進・後退のみを組むにとどまった。
9月14日(日)の大会当日、会場となったD2Cホールに到着すると、すでに大勢の参加者が待機していた。選手とコーチ用の選手席が設けられ、それぞれ最後の調整に入っている。参加チーム31組の内、個人参加は12組。個人の場合、コーチは親が担当しているチームが多い。
WROでは本番の競技が2回あり、良い方の成績が採用される。本番前にロボットの調整時間が設けられており、その間は自由にロボットの調整や組み替えができるほか、実際のフィールドでテスト走行などが行える。
試走できるフィールドは4つしかないため、調整時間が始まると各チームともフィールドに向かう。我がチームも、ロボットを手に並んでいたのだが、なぜか試走する前に戻ってきて、やや緊張した顔つきでこう宣言した。
「ロボットを作り変える」
どうやら参加者のロボットを見て、自分たちのロボットに足りなかった要素に気付いたらしい。ルール上、調整時間中の組み替えはオーケーとされているので問題はないが、たった2時間でできるものなのか。それでも2人の決意は固いようだったので、まかせることにした。
1時間ほどかけて、ロボットの組み換えが完成した。1台ずつ用意していたセットをばらし、それぞれのモーターとハブを使い、2つのモーターを使うことにした。
ルールにも「モーターやハブは複数使ってもよい」と明記されていたので、薄々予想はしていたが、大会に参加したほとんどのチームが2つ以上のモーターを使用しており、中には4個のモーターを組み合わせているロボットもあった。
モーターを2つ使用することで、左右のタイヤをそれぞれ動かすことができる。しかし、問題はその方法だ。時間のない中、プログラミングを組んでみたがうまくいかず、苦肉の策として、2台のiPadを使い、2台のモーターを同時に動かすことになった。結果として、かなり操作が難しいものになってしまった。
時間はいくらあっても足りない状態だったが、昼食を終えると、いよいよ開会式がスタート。選手宣誓ののち、1回目の競技が始まった。
競技は、チーム数が多いため、2つのフィールドで同時に進行していった。各チームの走行を見て驚いたのが、その技術力の高さだけでなく、プログラミング力だ。
ロボットのタイプでもっとも多かったのが、四角く枠を作り、フルーツ台を倒して、ボールだけをさらっていくというものだ。しかし、外観は似ていても、実際に動いていると、チームによって色々と違いが感じられた。あらかじめScratchでコースを完璧に考えたプログラミングを組んでおり、ほぼ操作はしないチームもあれば、前後の操作だけで、うまくロボットを動かしているチームもあった。
今回挑戦してみて、「課題が難しすぎるから120点満点をとるチームはいないだろう」と勝手に思っていたのだが、実際にはミッションを完遂するチームが続々と現れただけでなく、独自のすばらしい工夫と技術が詰まったロボットも多数登場した。
全てを紹介することはできないが、印象に残ったチームとロボットをいくつか紹介する。
兄弟で参加していた個人参加のチーム。4つのモーターを使い、高さを調整できるアームでボールを掴み、ボールを台に置いていた。競技では時間制限のため、ボールを1個しかとることができなかったものの、その技術力の高さと素晴らしい工夫に対して、大きな拍手がおくられていた。
製作したのは、兄である小学3年生の男子。レゴが大好きで、普段は自学で「マインドストーム」を楽しんでいるという筋金入りのレゴ好き少年だ。ボールを落とすのではなく「掴む」ことを実現していた唯一のロボットとして、個人的にもっともワクワクした。
石垣島からWROのために上京したという小学生のペア。指導したのは、なんと彼らの兄姉である小学生6年生。チーム名の一部「Step By Step」は、指導してくれた兄姉のチーム名だそう。Step By Step はWROの沖縄代表にも選ばれた実績をもっており、普段から一緒に挑戦しているということで、ロボットも非常に完成度の高いものだった。
他と一線を画すデザインと、プレイステーション用コントローラによる操作で注目を集めていた。
2度目の調整時間ののち、競技が行われ、最後に結果発表となった。優勝したのは、静岡のプログラミング教室から出場した「みらい子ども教室Pblocks」のチームだ。
台を倒してフルーツを運ぶタイプのロボットを製作し、Scratchを用いてコースを効率的にまわるプログラミングを組んでいた。ミスのない操作と無駄のない動きですべてのミッションを高速でクリアし、圧倒的な技術力で優勝を勝ち取った。
みらい子ども教室Pblocksは全7チーム出場し、うち2組が優勝・準優勝を制するという成績をおさめた。代表を務める下山透氏は、「優勝したチームもあれば、残念ながら0点という結果になってしまったチームもあったが、結果として子ども達にとって素晴らしい経験になった思う」と語っていた。
今回31組のロボットとその走行を見て改めて感じたことは、工夫次第でどんなものでも作れるということだ。モーター1個のみで前後の移動だけを使い、最短のルートを必要最低限の動きで完走し、3位に入賞したチームもあった。モーターを複数使っているチームが多い中、工夫次第で質の高い作品を作ることを証明した好例ともいえるだろう。
こうして、朝9時から始まった「WRO Japan 2018 WeDo Challenge」は、8時間後の17時に幕を閉じた。会場では、大会と同時進行で、見学者向けにマインドストームやWeDoの展示、体験ワークショップなども開催されており、多くの親子連れで終始にぎわっていた。
始まる前は長丁場だと思っていたが、いざ始まってみるとあっという間で、この1日だけでも多くの発見やドラマがあった。自分のチームについて考えると、練習時間が圧倒的に少なく、製作もプログラミングにも工夫が足りなかったなど、反省すべき点は多々ある。しかし、それでも出た意味は大きい。
ひとつの課題に対して考えること、試してみること、失敗してみること、他者から学んでみることなど、多くの経験と気付きをこの短期間で得ることができた。これは、自学だけではなかなか得られないものだ。また、大会を通じて他のチームの保護者や参加者と交流を深められたのも、うれしい収穫であった。
「WRO Japan 2018 WeDo Challenge」はまだ始まったばかりの大会だが、出場できる年齢も限られているため、小学校中学年までのプログラミングやロボット製作のひとつの目標としても向いている。子どもに興味があれば、ぜひ親子で大会出場を目指してみるのもおすすめだ。